災害や通信障害でスマホが圏外になったとき、連絡手段と同じくらい困るのが支払いです。財布を持たずスマホだけで出かける人ほど、水も食料も買えなくなります。
先に結論です。主要なコード決済4社(PayPay・d払い・au PAY・楽天ペイ)は、自分のスマホがネットにつながらなくても支払える機能をすでに用意しています。ただし、これは「圏外でも決済が成立する魔法」ではありません。
- 使えるのは、お店がこちらのバーコードを読み取る方式のときだけ
- お店側の決済端末はネットにつながっている必要がある(d払いが公式に明記)
- 回数に上限がある。超えてもエラーが出ない場合がある(d払い)
- 決済完了画面も決済音も出ない。支払えたかはレシートで確認する
- チャージはできない。残高が足りなければそこで終わり
- Suica(モバイルSuica)は仕組みが別で、チャージ済み残高なら通信なしで使える
つまり、「自分のスマホが圏外」と「街全体が停電・障害」はまったく別の話です。順に見ていきます。
まず整理:スマホ決済が止まる原因は3か所ある#
止まる場所によって、できることが変わります。
| 止まる場所 | 起きること | オフライン支払いで救えるか |
|---|---|---|
| ① 自分のスマホの通信(圏外・障害・電池) | アプリがコードを表示できない | 救える(本記事の機能) |
| ② お店の決済端末・レジの通信 | 読み取っても処理が通らない | 救えない |
| ③ 停電(店の電源そのもの) | レジも端末も動かない | 救えない |
自分の回線だけが落ちているのか、地域全体が落ちているのかで打つ手が変わります。切り分けの手順は通信障害かも?と思ったらまず確認することにまとめました。停電が長引くと基地局そのものが止まるため、①と②③が同時に来ることもあります(停電が長引くと基地局が止まる)。
「お店側はネットにつながっている必要がある」と公式に書かれている#
いちばん誤解されやすい点なので、先に置いておきます。
NTTドコモは、d払いのオフライン機能の注釈で次のように明記しています。
「『d 払い』加盟店の決済端末がネットワークに接続している必要があります。『d 払い』加盟店の QR コードを『d 払い』で読み取る支払い方式はご利用いただけません。」 (「d 払い」にネットワークに接続していなくても支払いが可能な機能を追加・NTTドコモ)
お店が読み取る側にいる以上、お店の端末が動いていなければ決済は通りません。 これはd払いに限った話ではなく、他社も「お客さまが表示したコードをお店が読み取る」方式で提供しているため、同じ前提だと考えておくのが安全です。
裏を返せば、この機能が効くのは「店は普通に営業しているのに、自分のスマホだけがつながらない」という場面です。地下や電波の弱い場所、混雑した会場、自分の契約先だけで起きた通信障害——このあたりが本来の想定です。
4社の対応状況(公式情報ベース)#
いずれも事前の申し込みは不要ですが、アプリのバージョンや「直近にアプリを開いていること」が条件になっている点は共通しています。
| PayPay | d払い | au PAY | 楽天ペイ | |
|---|---|---|---|---|
| 1回の上限 | 50,000円 | 支払方法ごとの上限と同様 | 300,000円 | 50,000円 |
| 24時間の回数 | 5回 | 5回 | 制限なし | 5回 |
| 中期の回数 | 20回/30日 | 20回/30日 | 制限なし | 10回/14日 |
| 直近の起動条件 | 過去1週間 | 過去1週間 | 記載あり(後述) | 過去7日以内 |
| 決済完了画面・音 | 出ない | 出ない | 出ない | リアルタイムでは出ない |
※すべて各社公式ページの記載にもとづく2026年9月5日時点の内容です。上限や条件は変更されることがあります。
PayPay#
PayPayは「オフライン支払いモード」として提供しています。インターネットに接続できない、または接続が不安定なときに「インターネットに接続できません」と表示され、そこからバーコードでの支払いに進む流れです。
公式ヘルプによると、対象は過去1週間にPayPayアプリを開いたことがある人で、使えるのはPayPay残高とPayPayクレジット。上限は1回50,000円、24時間以内に5回、30日以内に20回です(30日あたりの回数は2024年4月24日に10回から20回へ拡大されています)。Apple Watchのアプリでは利用できません。
注意点として、公式は「PayPayの音は鳴りません」「決済完了画面は表示されません」と明記しており、「お店から発行されるレシートもしくは直接ご利用のお店に問題なく支払いが完了しているか、必ず確認してください」としています。
d払い#
d払いは2025年1月29日から提供されています。事前の設定は不要で、ネットワークに接続していない場合や接続が不安定な場合に、自動的に専用の支払い画面(「ネット未接続で支払い」)に切り替わる仕組みです。
災害時に効いてくる制約が多いので、公式資料の表から拾っておきます。
- 支払方法:「dカード」からの支払い/電話料金合算払い/d払い残高の3つ。「dカード」以外のクレジットカードを支払方法に設定している場合、この機能は作動しません
- 上限回数:5回/過去24時間、20回/過去30日間(開始時は10回/30日で、2025年12月に拡大)
- チャージ不可:「本機能起動中は、チャージおよびオートチャージ機能はご利用いただけません」。残高不足ならその時点で詰みます
- dポイントは使えない(進呈はされる)
- 回数超過してもエラーが出ない:「決済回数を超過した場合は支払いできません。なお、『d払い』上にエラーは表示されません」
最後の1つはとくに注意が必要です。なぜ通らないのか画面からはわからない、ということです。公式は支払い画面の「×」でネットワーク再接続を試すか、他の決済手段を使うよう案内しています。
au PAY#
au PAYは2025年12月1日から「オフラインコード支払い」を提供しています。1回の決済金額は300,000円まで、決済回数に制限はありませんとされており、上限の面では4社の中でもっとも緩い設計です。
一方で、事前準備の面では条件があります。公式ページはアプリのアップデートが必要(iOS:9.98.5以上/Android:9.98.6以上)としたうえで、コードの有効期間について「最後に通信可能状態でau PAY アプリを起動してコード表示をしてから1週間表示可能です」と案内しています。しばらくアプリを開いていないと、いざというときにコードが出ないということです。
そのほか、「オフラインコード支払いでコード読取はご利用いただけません」(=自分で店のQRを読み取る方式は不可)、「スクリーンショットは撮影できません」、「決済完了音やポイントの表示はありません」といった記載があります。オートチャージを設定していれば、残高がなくても決済できるとされています。
楽天ペイ#
楽天ペイの「オフラインコード払い」は、公式ページによるとiOS版が先行しており、Android版は「今秋よりご利用いただける予定」と案内されています(2026年9月5日時点)。使うにはアプリのバージョン9.17.0以上と、過去7日以内にアプリを開いていることが条件です。
上限は1回あたり50,000円、24時間あたり5回、14日間あたり10回。「コード提示」でのみ利用可能で、対応店舗も「楽天ペイが使える一部のお店」からの順次拡大とされています。決済完了画面(決済音を含む)や決済完了通知はリアルタイムでは表示されません。
Androidを使っていて楽天ペイをメインにしている人は、現時点では対応していない前提で備えておくのが安全です。
Suica(交通系IC)は仕組みがまったく違う#
コード決済とは別に、Suicaのような非接触ICは通信を使わずに残高を書き換える仕組みです。ここは災害時にかなり効きます。
JR東日本の公式FAQは、次のように案内しています。
「機内モードや通信障害等で端末通信ができない場合でも、モバイルSuicaはSuicaカードと同様に以下機能はご利用可能です」 (通信障害発生時や機内モードでもモバイルSuicaは利用できますか?・JR東日本)
通信できなくても使えるとされているもの
- 購入済の定期券・グリーン券のご利用
- チャージ残高のご利用(交通機関利用、お買いもの)
- 現金によるチャージ残高への入金(チャージ)
- オートチャージ(設定済の場合)
使えないもの
- クレジットカードでのチャージ、定期券・グリーン券の新規購入等、アプリへのログインを必要とする全てのサービス
つまり、残高さえ入っていれば、圏外でも電車に乗れて買い物もできる。ただしアプリからのチャージはできないので、残高が尽きたら現金でチャージするしかありません。
災害の備えという観点では、Suicaの残高を普段から少し多めに入れておくのが、いちばん手軽な対策になります。なお公式は「端末設定によってはSuicaカードと同様の機能であってもご利用できない場合がある」とも注記しているので、自分の端末で一度、機内モードにして改札やレジを通してみると確実です。
共通してハマりやすい5つのこと#
① 「支払えたかどうか」が画面でわからない#
4社とも決済完了画面や決済音が出ません。レシートを受け取る、または店員に確認するのが唯一の確認手段です。二重に払ってしまわないよう、通信が戻ったら取引履歴で確認してください。
② 回数上限があり、しかも気づきにくい#
災害が長引けば、24時間5回・30日20回はあっという間です。家族の買い出しを1人のアカウントに集中させないほうが安全です。d払いは上限超過時にエラーすら出ないため、「なぜか通らない」状態になります。
③ チャージができない#
d払いは本機能起動中のチャージ・オートチャージが不可、モバイルSuicaもアプリからのチャージは不可です。残高=使える上限になります。平常時に残高を切らさない運用にしておくことが備えそのものです。
④ 「直近にアプリを開いていること」が条件#
PayPayは過去1週間、楽天ペイは過去7日以内、d払いも過去1週間以内の起動が対象条件です。au PAYはコード表示から1週間という有効期間があります。防災用として入れただけで一度も開いていないアプリは、いざというとき機能しません。
⑤ フリーWi-Fiで決済しようとしない#
「00000JAPAN があるから大丈夫」と考えるのは危険です。00000JAPANは誰でもつながる代わりに通信が暗号化されていません。総務省も注意喚起しており、クレジットカード番号やログイン情報を入力する用途には向きません。線引きは00000JAPANの安全な使い方にまとめています。
また、支払いアプリに再ログインが必要になった場合、SMSの認証コードが届かないと詰みます。データ専用SIMを使っている人はとくに注意してください(災害時に「SMS認証コードが届かない」とログインできない)。
結局、現金はいくら持てばいいのか#
「いくら」を公的機関が金額で示している資料は見つけられませんでした。ただし、現金そのものは公的な備蓄リストに入っています。
総務省消防庁の「非常用持出品チェックシート」は、貴重品類の筆頭に「現金 10円玉」を挙げ、「10円玉は公衆電話用に。」と注記しています(非常用持出品チェックシート・消防庁)。
つまり現金は、買い物だけでなく通信手段(公衆電話)のための備えでもあります。災害時の公衆電話は無料化されることがありますが、機種によっては硬貨を入れてからかける必要があり、そのお金は返却されます。使い方と設置場所の調べ方は災害時の公衆電話の使い方にまとめました。
平常時にやっておくこと#
- メインで使う決済アプリを週に1回は開く(オフライン機能の対象条件を満たすため)
- d払いユーザーは、支払方法が「dカード以外のクレジットカード」になっていないか確認する(なっていると機能自体が作動しません)
- Suicaなど交通系ICの残高を少し多めにしておく
- Android版の楽天ペイをメインにしている人は、別の決済手段を1つ用意しておく
- 硬貨を含む現金を非常用持ち出し袋に入れる(10円玉は公衆電話用)
- 一度、機内モードでアプリを開いてオフライン画面が出るか試しておく
最後の項目がいちばん効きます。実際にやってみると、自分のアプリが対象条件を満たしているかがその場でわかります。
まとめ#
コード決済のオフライン機能は、「自分のスマホだけがつながらない」ときの保険としてはかなり有効です。4社とも事前申し込みが不要で、自動的にオフライン画面へ切り替わります。
一方で、停電や広域障害で店側が止まっているときには効きません。ドコモが「加盟店の決済端末がネットワークに接続している必要があります」と明記しているとおりです。ここを混同すると、備えたつもりで備えられていないことになります。
現実的な備えは、①決済アプリを定期的に開いておく ②交通系ICの残高を確保する ③現金(硬貨を含む)を持つの3段構えです。通信・電源・支払いのどれか1つが欠けても生活は止まるので、災害時の連絡手段まとめや災害用サブ回線は月いくらで維持できる?とあわせて、抜けている部分から埋めてみてください。