避難所で「うちのスマホは圏外だけど、この避難所の地図だけでも家族に渡したい」という場面があります。電波がなくても、すぐ隣にいる人になら、スマホからスマホへ直接データを渡せる手段があります。
先に結論です。
- iPhone同士(AirDrop):Appleが公式に「インターネット接続やワイヤレスアクセスポイント(AP)を使用せずにデバイス間で直接通信します」と明記。圏外でも使える設計です
- Android同士(Quick Share):Wi-FiとBluetoothをオンにして近づければ使えます。ただし「インターネット不要」と明記した公式の記述は見つけられませんでした
- AndroidとiPhoneの間:ここが落とし穴です。対応機種以外はQRコード経由になり、Googleが「両方のデバイスがインターネットに接続している必要があります」と明記しています。つまり圏外では使えません
「渡せるつもりでいたのに、当日は組み合わせが悪くて渡せなかった」が起きやすいところです。順に見ていきます。
この記事が合わない人へ(先に確認)#
- 離れた場所にいる家族と連絡を取りたい → 災害時の連絡手段の全体像
- 圏外だが避難所のWi-Fiは使える → Wi-Fiだけで使える連絡手段
- なぜ圏外になっているのかを先に知りたい → 通信障害のときにまず確認すること
なぜ災害時に「隣の人へ直接渡す」が効くのか#
災害時に通信が使えなくなる理由は、大きく3つあります。
- 回線が混雑して通りにくくなる(輻輳と通信規制。→災害時に電話だけつながらないのはなぜ?)
- 停電が長引いて基地局が止まる(→停電が長引くと基地局が止まる)
- データ容量を使い切って速度制限がかかる(→災害時にデータ容量が尽きたら?)
このどれが起きても、「端末同士が直接つながる仕組み」だけは影響を受けません。基地局もインターネットも経由しないからです。避難所のように人が集まっている場所では、この差が効いてきます。
iPhone同士:AirDropは公式に「インターネットを使わない」#
Appleは「Appleプラットフォームのセキュリティ」で、AirDropの仕組みをこう説明しています。
- 「Bluetooth Low Energy(BLE)とApple製のピアツーピアWi-Fiテクノロジーを使用して」データを送る
- 「Wi-Fi通信を使用して、インターネット接続やワイヤレスアクセスポイント(AP)を使用せずにデバイス間で直接通信します」
- 「この接続はTLSで暗号化されます」
Wi-Fiという言葉が出てくるので「Wi-Fiルーターが必要では」と誤解しやすいのですが、ここでのWi-Fiは端末同士が直接つながるための電波です。ルーターも回線契約も要りません。
使うときの条件#
Appleのサポート記事には、次の条件が書かれています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| Wi-FiとBluetooth | 「送る側と受け取る側の双方でWi-FiとBluetoothの両方がオンになっていることを確認します」 |
| インターネット共有 | 「いずれかがインターネット共有をオンにしている場合は、オフにしてください」 |
| 距離 | 相手が近くにいること |
| 受信設定 | 「受信しない」「連絡先のみ」「すべての人(10分間のみ)」から選ぶ |
見落としやすいのが2つ目です。災害時は「回線が生きている人がテザリングして家族に分ける」という動きをしがちですが(→災害時に1本の回線を家族で分け合う)、インターネット共有をオンにしたままだとAirDropが使えません。渡すときは一度オフにする、と覚えておいてください。
また、AirDropは「デフォルトでは『連絡先のみ』と共有するように設定されています」(Apple)。連絡先に入っていない相手(避難所で隣になった人、支援に来た人)に渡すときは、受信側に「すべての人(10分間のみ)」へ切り替えてもらう必要があります。
Android同士:Quick Shareの条件#
Androidの「Quick Share」(旧ニアバイシェア)は、Googleのヘルプによると次の条件です。
- 対応:「Android 6 以降を搭載したデバイス」、Chromebook、専用アプリを入れた一部のWindows PC
- 「両方のデバイスで、[Wi-Fi] を ON にする必要があります」「[Bluetooth] が ON になっていることを確認します」
- 「Android 12 以前のデバイスをお使いの場合は、位置情報がオンになっているか確認します」
- 「デバイス間の距離を 30 cm 以内に近づけます」
- 受信側は「画面がロック解除されていること」
共有できるものは、Android公式サイトの説明で「画像(写真など)、動画、PDF、アプリ、音声データ、フォルダ全体、選択したテキスト、クリップボードのコンテンツ、ウェブページの URL」とされています。
公開設定は「自分のデバイス」「連絡先」「すべてのユーザーに対し 10 分間」の3つです。3つ目については「プライバシー保護のため、10 分経過すると公開設定が直前の選択に自動的に切り替わります」と説明されています。
なお、Android同士のQuick Shareについて「インターネット接続は不要」と明記したGoogleの公式説明は、確認した範囲では見つけられませんでした。条件として書かれているのはWi-FiとBluetoothをオンにすることだけです。ここは断定せず、平常時に自分の端末で試しておくのが確実です(後述のチェックリスト参照)。
AndroidとiPhoneの間:ここだけ扱いが違う#
いちばん注意が必要なのがこの組み合わせです。Googleのヘルプでは、機種によって2つの方式に分かれると説明されています。
① AirDropのQuick Shareに対応している機種#
この場合は、AndroidからiPhone/iPad/Macへ直接送れます。Googleが挙げている対象は次のとおりです。
- 送信(Android → iPhone等):「Google Pixel 8a 以降。一部の Samsung、Oppo、OnePlus、Vivo、Xiaomi、Honor、Transsion、Motorola デバイス。」
- 受信(iPhone等 → Android):「Google Pixel 9 以降(Google Pixel 9a を除く)」ほか、上記メーカーの一部デバイス
手順は、相手のiPhone側でAirDropの公開設定を「すべてのユーザーに対し 10 分間」にしてもらい、Android側で共有アイコン→Quick Shareを選ぶ、という流れです。
② 対応していない機種#
こちらはQRコードを使った方式になり、Googleが「転送を正常に行うには、両方のデバイスがインターネットに接続している必要があります」と明記しています。受信側の手順にも「デバイスをインターネットに接続します」とあります。
つまり、この方式は圏外では成立しません。ファイルはいったんネット経由で預けられる形になり、「ファイルは暗号化された状態で保持され、24 時間ダウンロードできます」と案内されています。あわせて次の上限も示されています。
- 「iPhone、iPad、macOS デバイスには、24 時間ごとに最大 10 GB のファイルを共有できます」
- 「1 回の共有セッションで最大 1,000 個のファイルを共有できます」
- 「一度に最大 20 台の iPhone、iPad、macOS デバイスにファイルを共有できます」
早見表#
| 組み合わせ | 圏外で使えるか | 根拠 |
|---|---|---|
| iPhone ↔ iPhone(AirDrop) | ○ | Appleが「インターネット接続やAPを使用せずに直接通信」と明記 |
| Android ↔ Android(Quick Share) | △(公式明記なし) | 条件はWi-Fi・Bluetoothのオンのみ。事前に試して確認を |
| Android ↔ iPhone(対応機種) | ○ | AirDrop経由で直接やり取りする方式 |
| Android ↔ iPhone(非対応機種) | × | Googleが「両方のデバイスがインターネットに接続している必要があります」と明記 |
家族でiPhoneとAndroidが混ざっている場合、「非対応機種同士だと圏外では渡せない」という前提で備えを組む必要があります。
圏外で渡して役に立つのは「ファイルになっているもの」#
この仕組みで渡せるのは、端末に保存されたデータです。アプリの中にしか存在しない情報は渡せません。ここを勘違いすると、当日「渡せると思っていたのに」となります。
渡せる例:
- ハザードマップや避難所一覧のPDF(自治体サイトから事前にダウンロードしておく)
- 避難経路や集合場所のスクリーンショット
- 家族の連絡先(連絡先カード)
- 給水所や炊き出しの案内を撮った写真
渡せない例:
- Googleマップ・Appleマップのオフライン地図データそのもの(アプリが管理する保存領域にあり、ファイルとして受け渡す想定になっていません)。各自が事前に自分の端末へ落としておく必要があります → 圏外でも地図を見るには?
- リアルタイムの位置情報(通信が必要。→災害前に家族と位置情報を共有しておく)
対策はシンプルで、「圏外でも見せたいものは、あらかじめPDFか画像にして端末に置いておく」ことです。
避難所で使うときに気をつけること#
人が多い場所で「すべての人」に公開すると、見知らぬ相手から一方的に送りつけられる余地ができます。AppleもGoogleも、この設定を10分で自動的に戻す仕様にしているのは、出しっぱなしを想定していないからです。
- 受信設定を「すべての人(10分間のみ)」にするのは渡すときだけにする
- 心当たりのない相手からの受信は辞退する(プレビューが表示されるので、内容を見てから判断できます)
- 終わったら「連絡先のみ」に戻っているか確認する
同じ考え方は災害時の無料Wi-Fiにも当てはまります。→00000JAPANの安全な使い方
平常時にやっておく4つのこと#
- 家族の端末がiPhone・Androidどちらか、Androidなら機種名を把握しておく(AndroidとiPhoneが混在していると圏外で渡せない可能性がある)
- 機内モードにした状態で、家族同士でAirDrop/Quick Shareを1回試しておく(本当に通信なしで渡せるか、自分の端末で確認できます)
- 自治体のハザードマップ・避難所一覧のPDFを端末に保存しておく
- AirDropの受信設定が「連絡先のみ」に戻っているか確認する
2つ目がいちばん確実な検証方法です。「たぶん使える」で済ませないでください。
まとめ#
圏外でも、近くにいる人へ直接データを渡す手段は残っています。Appleは公式に、AirDropが「インターネット接続やワイヤレスアクセスポイント(AP)を使用せずにデバイス間で直接通信します」と説明しています。
ただしAndroidとiPhoneの間だけは事情が違い、対応機種でなければQRコード経由になり、Googleが「両方のデバイスがインターネットに接続している必要があります」と明記しています。家族の端末構成によっては、圏外での受け渡しが成立しません。
回線そのものが生きているかどうかの切り分けは通信障害かも?と思ったらまず確認すること、Wi-Fiにつながったときに何が使えるかは圏外でもWi-Fiがあれば連絡できる?に整理しています。そもそも圏外になりにくくするための備えとしては、格安SIMの「回線元」一覧で自分の回線網を確認し、別の回線網で1本持っておく方法があります。