災害用のサブ回線を家族の人数分そろえようとすると、維持費も管理の手間も人数倍になります。ただ、**災害時に必要なのは「全員が同時に別々の回線を持つこと」ではなく、「家族の誰か1台がつながっていること」**であることが多いはずです。
その1台からほかの端末に接続を配るのがテザリング(インターネット共有)です。ここでは設定手順と、災害時に効いてくる注意点を公式情報をもとに整理します。
先に結論を書くと、次の3点です。
- テザリングは主要各社で申し込み不要・追加料金なしのことが多い(要確認だが、povo2.0・UQ mobile・IIJmioは公式にそう案内)
- 親機の電池とデータ量が全員分を背負うので、そこが最初に尽きる
- デュアルSIMの端末では、「モバイルデータ通信に選んだ回線」が共有される(Apple公式に明記)
① 家族分の回線を増やすか、1本を分け合うか
サブ回線を1本増やすとして、たとえばpovo2.0なら年間の維持費は数百円規模ですが、それでも家族4人分なら管理する契約が4つ増えます(維持ルールはpovo2.0を災害用のサブ回線にする方法にまとめています)。
一方、テザリングなら追加の契約は不要です。ただし両者は代替関係ではなく、役割が違います。
| 人数分のサブ回線 | 1本+テザリング | |
|---|---|---|
| 費用 | 人数分かかる | 追加費用なし |
| 家族が離れているとき | それぞれ使える | 使えない(電波の届く範囲のみ) |
| 電池 | 分散する | 親機に集中する |
| 親機が壊れた・電池切れ | 影響なし | 全員つながらなくなる |
つまりテザリングは「同じ場所にいる家族の端末をまとめてつなぐ」手段であって、通勤・通学先で被災して家族がバラバラになる状況の備えにはなりません。全員が別々に連絡手段を持つ必要がある場面もあるので、そこは災害時の連絡手段まとめの内容と組み合わせて考えてください。
② テザリングに申し込みや追加料金は必要?
ここは会社ごとに違うため、契約先の公式案内を確認するのが確実です。Appleも公式ガイドで「インターネット共有は、一部の通信事業者では利用できません。追加料金が必要になる場合もあります」と注意しています。
確認できた範囲では次のとおりです。
- povo2.0:「事前登録も追加料金も不要で好きな時にテザリングを利用できます」(povo公式)
- UQ mobile:テザリング機能は月額料金「無料」、申し込み「不要」。ただし「機種により対応できるテザリングの種類が異なります」(UQ mobile公式)
- IIJmio:「ギガプラン・mioモバイルではテザリングについて制限を設けていませんので、通信設定をおこなうことで基本的に利用可能です」。ただし「OSのバージョンやキャリア設定によっては、テザリングがご利用できない場合があります」(IIJmio公式Q&A)
いずれも「回線側は制限していないが、端末側の対応は別」という書き方になっている点が共通しています。IIJmioやUQ mobileは動作確認端末一覧を公開しているので、手持ちの端末と組み合わせて確認できます。
③ iPhoneでインターネット共有を設定する
Appleの公式ガイド「iPhoneからインターネット接続を共有する」に沿った手順です。
- 設定 アプリを開く
- **「モバイル通信」をタップし、「“インターネット共有”を設定」**をタップ
- 画面の指示に従う(このとき接続用のパスワードを設定します)
パスワードをあとから変更する場合は、**設定 → モバイル通信 → インターネット共有 → 「“Wi-Fi”のパスワード」**から変更できます。
オン/オフの切り替えは、設定 → インターネット共有から行います。この画面で「インターネット共有を利用できる人を選択したり、パスワードを設定したり」でき、ファミリー共有グループに参加している場合は特定の家族と自動的に共有するかどうかも決められます。
接続する側の端末では、Wi-Fi設定から親機のiPhoneを選び、設定したパスワードを入力します。Appleデバイス同士で同じApple Accountにサインインしていれば、パスワードの入力は不要です。
なお「設定 → モバイル通信」でモバイルデータ通信がオンなのに**「“インターネット共有”を設定」が表示されない場合**、Appleは「インターネット共有をプランに追加する方法について、ご利用の通信事業者にお問い合わせください」と案内しています。つまりこの表示が出ないときは端末側の設定ではなく契約側の問題の可能性があります。
④ Android(Pixel)でアクセスポイントを設定する
Google Pixel公式ヘルプの記載に沿った手順です。Pixel以外のAndroidでは名称や階層が異なることがあります。
Wi-Fiアクセスポイント: 設定アプリ → [ネットワークとインターネット] → [アクセス ポイントとテザリング] → [Wi-Fi アクセス ポイント] をオンにします。同じ画面でアクセスポイントの名前とパスワードを確認・変更できます。
Bluetoothテザリング: 相手のデバイスとペア設定したうえで、設定アプリ → [ネットワークとインターネット] → [アクセス ポイントとテザリング] → [Bluetooth テザリング]。
USBテザリング: USBケーブルで接続してから、設定アプリ → [ネットワークとインターネット] → [アクセス ポイントとテザリング] → [USB テザリング] をオン。
Google公式は次の点も明記しています。
- 「電池を節約するため、デバイスが接続されていないときはアクセス ポイントがオフになります」([アクセス ポイントを自動的にオフにする] で切り替え可能)
- 「テザリング中はデバイスを電源に接続し、完了したら接続をオフにすることをおすすめします」
- 「現在のところ、日本では Wi-Fi 5 GHz AP モードをアクセス ポイントで使用することはできません」
- Macでは、USB経由でのAndroidのテザリングと、macOS Monterey以降でのBluetoothテザリングは利用できない
⑤ Wi-Fi・Bluetooth・USBの使い分け
3方式の違いは、災害時には「電池の持ち」という形で効いてきます。povo公式は各方式を次のように説明しています。
| 方式 | 特徴(各社公式の説明) |
|---|---|
| Wi-Fi | 高速だが電池の消耗が激しい。複数機器の同時接続が可能(UQ mobile) |
| Bluetooth | 電池持ちが良いが通信速度が遅い。設定が簡単(UQ mobile) |
| USB | 高速。機種によってはノートPCから親機へ給電もできる |
停電が続いていて充電手段が限られる状況なら、速度より電池持ちを優先してBluetoothを選ぶ判断もあります。逆にノートPCが手元にあってPC側のバッテリーに余裕があるなら、USB接続にすると親機を充電しながら通信できる場合があります。
⑥ 災害時に効いてくる5つの注意点
1. 親機の電池が全員分を背負う
テザリングは親機の消費が大きい機能です。Google公式が「テザリング中はデバイスを電源に接続し」と推奨しているとおり、平常時は電源につないで使う前提の機能だと考えたほうが安全です。
停電中に電源につなげない状況では、親機を1台に固定せず、電池残量の多い端末に交代で親機を担当させるほうが家族全体としては長く持ちます。
電池側の備えは災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?、消費を抑える設定は災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定、充電手段そのものは停電中にスマホをどう充電する?にまとめています。
なお省電力モードとの併用には注意が必要です。Pixel 3以降のスーパーバッテリーセーバーでは「現在のアクセスポイントやテザリングはすべて停止します」とGoogle公式が明記しています。電池を節約しようとして、家族の通信ごと切ってしまわないようにしてください。
2. データ量も全員分が1本に集中する
親機のデータ残量を4人で分け合う形になります。auが公開している1GBあたりの目安(公式FAQ)は次のとおりです。
- ニュースサイト閲覧:約6,600ページ(1ページ150KBとして計算)
- メール送受信:約2,000通(1通500KBとして計算)
- LINE音声通話:約40時間
- LINEビデオ通話:約3時間
- ネット動画:約4時間(512kbps程度の中画質、1分4MBとして計算)
- YouTube高画質(HD 720P):約1.5時間(1分12MBとして計算)
テキストの安否確認や情報収集ならデータ消費は小さい一方、動画とビデオ通話は桁が違います。テザリング中は家族に「動画は控える」と共有しておくだけで、持ち時間がかなり変わります。
3. デュアルSIMでは「データ通信に選んだ回線」が共有される
Apple公式ガイドは「2つのSIMを使用するようにiPhoneを設定した場合は、モバイルデータ通信用に選択した回線が使用されます」と明記しています。
つまりメイン回線が障害中でも、モバイルデータ通信の回線をサブ回線に切り替えなければ、テザリングもつながりません。切り替え手順はiPhoneでデュアルSIM(eSIM)を設定する手順、AndroidはPixelでデュアルSIMを設定する手順にまとめています。
そもそもサブ回線がメインと同じ電波を使っていると、障害時に共倒れになります。契約先ごとの回線元は格安SIMの「回線元」一覧を確認してください。
4. Wi-Fiでつながっている回線は再共有できない
Appleは「インターネット共有を使用できるのは、iPhoneのモバイルインターネット接続を共有する場合のみです。iPhoneをWi-Fiネットワークに接続してから、そのネットワークをほかのデバイスに共有することはできません」と明記しています。
避難所の無料Wi-Fiや00000JAPANに親機をつないで、そこから家族の端末に配る、という使い方はできないということです。00000JAPANは各端末から個別に接続する形になります(接続時の注意点は00000JAPANの安全な使い方にまとめています)。
5. アクセスポイント名に自分の名前が出ることがある
Appleは「インターネット共有の名前はデバイスの名前と同じ」としています。デバイス名を実名にしていると、周囲のWi-Fi一覧に実名が表示されます。避難所のように人が集まる場所では気になる点なので、変更するなら設定 → 一般 → 情報 → 名前から変更できます。
パスワードは必ず設定してください(iPhoneはインターネット共有の設定時にパスワード設定を求められます)。同時に接続できる台数は「通信事業者やiPhoneモデルによって異なります」とAppleは案内しています。
⑦ 平常時にやっておくこと
- 契約先の公式サイトで、テザリングが申し込み不要・無料かを確認する
- 手持ちの端末がテザリングに対応しているか(動作確認端末一覧)を確認する
- 家族の端末を実際に1回つないでみる(パスワードは家族で共有しておく)
- 親機のデバイス名を確認し、実名が出るなら変更する
- 「動画は控える」「電池が多い人が親機になる」を家族で決めておく
- デュアルSIMなら、データ通信回線の切り替え方を親機役の人が覚えておく
3番目が抜けやすいところです。テザリングは「使えるはず」で放置されがちですが、キャリア設定やOSバージョンの影響で使えないケースがあるとIIJmioも案内しています。一度つないで成功していることが確認できていれば、当日の不安は減ります。
まとめ
- テザリングは同じ場所にいる家族をまとめてつなぐ手段。離れているときの備えにはならない
- povo2.0・UQ mobile・IIJmioは、申し込み不要・追加料金なしと公式に案内している(端末側の対応は別途確認)
- iPhoneは設定 → モバイル通信 → 「“インターネット共有”を設定」、Pixelは設定 → [ネットワークとインターネット] → [アクセス ポイントとテザリング]
- 親機に電池とデータが集中する。電池持ち優先ならBluetooth、動画は控える
- デュアルSIMではモバイルデータ通信に選んだ回線が共有される。Wi-Fi接続の再共有は不可
回線をもう1本増やすかどうかを考える前に、いま持っている回線を家族で分け合えるようにしておくほうが、費用ゼロで効果が出ます。そのうえで、離れて被災したときのために各自の連絡手段を用意する——という順番が現実的だと思います。
なお、テザリングの出番がいちばん多いのは停電で自宅Wi-Fiが止まったときです。停電中に何が使えなくなるのか(ひかり電話は緊急通報もできません)は停電すると自宅のWi-Fiと固定電話は止まるにまとめています。
なお、親機に電池が集中する構成をとるなら、電源側の備えも一段厚くする必要があります。モバイルバッテリーで足りるかどうかの判断と、足りない場合のポータブル電源の選び方は災害用ポータブル電源の選び方にまとめました。
この記事の情報について:本記事は、Apple「iPhoneユーザガイド|iPhoneからインターネット接続を共有する」、Google Pixelヘルプ「Pixel でテザリングやアクセス ポイントを使用してモバイル接続を共有する」、Androidヘルプ「Android でアクセス ポイントやテザリングを使用してモバイル接続を共有する」、povo2.0公式「出張先での仕事にもpovo2.0を活用!テザリングのメリットと使い方」、UQ mobile公式「テザリング機能」、IIJmio Q&A「ギガプラン・mioモバイルでテザリングは利用できますか?」、au公式FAQ「1GBのデータ通信量で利用できる目安を知りたい」の各情報をもとに、2026年8月4日時点で確認した内容です。設定メニューの名称・階層はOSのバージョンや機種によって異なります。テザリングの提供条件・料金は変更される場合があるため、契約前・利用前に各社の公式サイトで最新の条件をご確認ください。データ量の目安はauが公表している計算上の数値であり、実際の消費量は利用状況によって変わります。