自宅にホームルーターがある、あるいはポケット型Wi-Fi(モバイルルーター)を契約している。それなら回線が2本あるのだから、災害用のサブ回線はもう要らない——そう考えたくなります。

先に結論です。

  • ホームルーターは持ち出せない。ドコモはhome 5Gについて「当社にご登録いただいた設置場所以外でのご利用は出来ません」と公式に明記している
  • しかも登録外での設置を確認された場合は利用を停止、繰り返せば回線解約を行うことがあると案内されている
  • ホームルーターはコンセント式なので、停電したその瞬間に止まる
  • モバイルルーターは持ち出せるが、バッテリーは有限。UQ WiMAXのSpeed Wi-Fi 5G X12は連続通信時間が公式仕様で約540分(初期設定時)
  • ルーターは電話機ではない。110番・119番も、携帯4社の災害用伝言板への登録も、ルーター単体ではできない
  • 料金はhome 5G 月額5,280円(税込)、UQ WiMAX ギガ放題プラスS 月額5,280円(税込・割引前)。「災害用の保険」として持つには高い

つまり、ルーターは「回線の2本目」にはなっても「災害用のサブ回線」にはなりにくい、というのが実際のところです。ただし、すでに持っているなら活かし方はあります。順に見ていきます。

この記事が合わない人へ(先に確認)#

いちばん大きい落とし穴:ホームルーターは避難先で使えない#

これを知らずに「うちは回線2本ある」と思っている人が、たぶんいちばん多いと思います。

ドコモは「home 5G」のご注意事項ページで、次のように案内しています。

ご契約時にご契約者住所に加え、国内におけるhome 5G専用ルーターの設置場所住所の情報を申告いただく必要があります。

そして、登録した場所以外で使った場合については、こう書かれています。

当社にご登録いただいた設置場所以外でのご利用は出来ません。なお、当社にご登録いただいた設置場所以外にhome 5G専用ルーターが設置されていることを当社が確認した場合、「料金プラン(home 5G)」お申込み時に新規で発行いただいたdアカウント・ビジネスdアカウントの連絡先メールアドレスへ通知し、「home 5G」のご利用を停止します。

さらに、

設置場所住所(home 5G)以外での利用を複数回繰り返す等の禁止行為を当社が確認した場合、当社が回線解約を行うことがあります。

とも案内されています。

災害時にホームルーターを持って避難する、という使い方は想定されていません。引っ越しなどで設置場所が変わる場合は、住所変更の手続きが必要だとされています。

UQ WiMAXのホームルーターも「据え置き」が前提#

UQ WiMAXのホームルーターについても、引っ越し時には住所変更の手続きが案内されています。UQ WiMAXの引越し関連ページには、ホームルーターは登録している住所以外では利用できないケースがあるため、住所が変わったら速やかに手続きをするよう記載があります。

いずれにせよ、ホームルーターは「家に置いて使う機械」です。避難先や職場に持ち込む前提で備えるものではない、と考えておくのが無難です。

コンセント式は、停電した瞬間に止まる#

ホームルーターのもう一つの弱点はこちらです。ドコモはhome 5Gを「コンセントに挿すだけ」で使えると案内していますが、裏を返すとコンセントが死ねば止まります。

これは光回線やひかり電話と同じ構図です。停電すると自宅の通信設備がどうなるかは停電すると自宅のWi-Fiと固定電話は止まるにまとめました。

「自宅の光回線が止まったときの保険にホームルーターを」と考える人がいますが、停電では両方同時に止まります。保険になっていません。

ポータブル電源につなげば動かせる可能性はありますが、ルーターを動かし続けるには相応の容量が要ります。容量の考え方は災害用ポータブル電源の選び方を参照してください。

そもそも、停電が長引けば基地局側も止まります。この点は停電が長引くと基地局が止まるにまとめています。自宅の電源だけ確保しても、電波が来なければ同じです。

モバイルルーターなら持ち出せる。ただし電池が要る#

ポケット型Wi-Fi(モバイルルーター)は設置場所の縛りがなく、持ち歩けます。ここはホームルーターより明確に有利です。

問題は電池です。UQ WiMAXが公式に示しているSpeed Wi-Fi 5G X12の仕様は次のとおりです。

項目公式仕様
バッテリー容量4,000mAh
連続通信時間初期設定時:約540分
連続待受時間初期設定時:約420時間
同時接続台数Wi-Fi:16台、USB:1台
対応回線5G(sub6/NR化)、4G LTE、WiMAX 2+

連続通信で約540分=9時間です。丸一日は持ちません。しかも実際には電波の弱い場所ほど電池を食います。

つまり、モバイルルーターを災害時に使うならルーターの分の充電も別に用意する必要があります。スマホ1台ぶんで足りると思っていると足が出ます。容量の考え方は災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?にまとめました。

「スマホ+ルーター」の2台を充電するのか、「スマホ1台」で済ませるのか。充電すべき機器が1台増えることは、災害時にははっきりデメリットです。

なお、同時接続16台という数字は家族で分け合うときに効きます。この用途ならスマホのテザリングでも代替できます(親機の電池は減りますが)。手順と注意点は災害時に1本の回線を家族で分け合うをご覧ください。

ルーターは電話機ではない#

ここが「サブ回線」として見たときの決定的な差です。ルーターはWi-Fiを配る機械であって、電話をかける機械ではありません。

災害時に必要になる機能を並べると、こうなります。

やりたいことルーター単体でスマホ+サブSIMで
データ通信(地図・SNS・ニュース)できるできる
110番・119番できない音声SIMならできる
音声通話できない音声SIMならできる
携帯4社の災害用伝言板に登録できない携帯電話番号があればできる
災害用伝言ダイヤル(171)に録音できないできる
緊急速報メール(緊急地震速報)の受信受け取るのは端末側端末が対応していれば受信

ルーターにつないだスマホから通話アプリで110番、と考える人がいますが、通話アプリでは緊急通報できません。この点は格安SIMで110番・119番はかけられる?で公式情報をもとに整理しています。データ通信しかない状態で緊急通報が必要になると、詰みます。

安否確認も同様です。携帯4社の災害用伝言板は携帯電話番号をキーに登録するしくみで、詳細は携帯4社の災害用伝言板の使い方にまとめました。声で残す災害用伝言ダイヤル(171)は電話回線のサービスです。

ルーターでできるのはインターネット経由の手段だけです。何が使えて何が使えないかは圏外でもWi-Fiがあれば連絡できる?の整理がそのまま当てはまります。

緊急速報メールについては、受信できるかどうかは端末側で決まります。詳しくは格安SIMでも緊急速報メール(緊急地震速報)は受信できる?をご覧ください。

「回線の冗長化」にはなるのか#

災害用のサブ回線の目的は、メイン回線がやられたときに別の回線網で通信を確保することです。この観点でルーターを見ると、条件つきで意味があります。

  • home 5G … ドコモの回線
  • UQ WiMAX(WiMAX +5G) … 公式仕様に「5G(sub6/NR化)、4G LTE、WiMAX 2+」と記載されており、au系の回線網

なので、たとえばメインがドコモ系の格安SIMで、WiMAXを持っているなら回線網は分かれています。逆に、メインもドコモ系でhome 5Gも持っている、という組み合わせは冗長化になりません。

自分のメイン回線がどの回線網なのかは格安SIMの「回線元」一覧で確認できます。まずここを見てから考えてください。

ただし、冗長化の効果があるのはモバイルルーターを持ち出せる場合だけです。ホームルーターは自宅から動かせないので、外出先で被災したときには何の役にも立ちません。

料金:「保険」として持つには高い#

公式の月額料金は次のとおりです。

サービス月額(税込)備考
ドコモ home 5G プラン5,280円(税抜4,800円)別途ブロードバンドユニバーサルサービス料・機種代金。契約事務手数料4,950円(ドコモオンラインショップでの購入時は無料と案内)
UQ WiMAX ギガ放題プラスS5,280円(割引前)WiMAX +5G割の適用で13か月間4,598円(682円/月引き)と案内

どちらも月5,000円台です。大容量のデータ通信を日常的に使うなら妥当な金額ですが、「災害のときだけ使う保険」としては明らかに割高です。

災害用のサブ回線をいくらで持てるかは災害用サブ回線は月いくらで維持できる?で各社の公式料金を比較しました。維持費だけで比べれば、ルーターとは桁が違います。povo2.0を災害用のサブ回線にするも併せてご覧ください。

なお、どちらのサービスも「一定期間内に大量のデータ通信のご利用があった場合、混雑する時間帯の通信速度を制限する場合があります」(UQ WiMAX)といった趣旨の注記があり、ドコモも大量通信時の速度制限を案内しています。「無制限だから災害時も安心」とは言えません。

すでにルーターを持っているなら、こう活かす#

新しく災害対策として契約するのは勧めませんが、すでに持っているなら活かし方はあります。

1. 「データを大量に使う役」を任せる#

災害時に効いてくるのは、平常時の使い方のほうです。普段の重い通信をルーター側に寄せておけば、スマホの契約データ量が温存されます。災害が起きたときにスマホ側のギガが残っている状態を作れるのは、地味に大きい差です。

データ容量が尽きたときに何が起きるかは災害時にデータ容量が尽きたら?にまとめました。

2. 家族が集まる場所の共有回線にする#

モバイルルーターなら、避難先で家族のスマホをまとめてつなげます。スマホのテザリングだと親機の電池が一気に減りますが、ルーターを親機にすれば各自のスマホの電池を守れます。

3. 予備スマホをネットにつなぐ手段にする#

SIMが入っていない古いスマホも、Wi-Fiにつなげば使えます。何ができるかは古いスマホを災害用の予備端末にするにまとめました。ルーターがあれば、この「SIMなし端末」を生かせます。

4. それでも音声回線は別に用意する#

1〜3をやっても、電話と安否確認の穴は埋まりません。ここだけは音声通話ができるSIMが要ります。ルーターを持っているかどうかにかかわらず、この部分は別に考えてください。

今日やっておくチェックリスト#

  • 自宅のホームルーターが登録した設置場所でしか使えない契約かを、契約先の公式情報で確認した
  • 停電したらホームルーターは止まると理解した(光回線と同時に落ちる)
  • モバイルルーターの連続通信時間をメーカー公式仕様で確認した
  • ルーターを持ち出すなら、ルーター用の充電手段も用意した
  • ルーターでは110番・119番と携帯4社の伝言板が使えないことを理解した
  • 自分のメイン回線とルーターの回線網が同じか違うかを確認した
  • 音声通話ができるサブ回線を、ルーターとは別に検討した

3番目と5番目が抜けやすいところです。

まとめ#

  • ホームルーターは避難先に持ち出せない。ドコモは「ご登録いただいた設置場所以外でのご利用は出来ません」と明記し、違反時は利用停止・回線解約もあり得ると案内している
  • ホームルーターはコンセント式。停電で光回線と同時に止まるので、自宅回線の保険にならない
  • モバイルルーターは持ち出せるが、公式仕様の連続通信時間は約540分(Speed Wi-Fi 5G X12)。充電すべき機器が1台増える
  • ルーターは電話機ではない。110番・119番、携帯4社の伝言板、171は使えない
  • 月額は5,280円(税込)前後。災害用の保険としては割高で、サブSIMとは桁が違う
  • 回線の冗長化にはなり得るが、メイン回線と回線網が違う場合に限る
  • すでに持っているなら、普段の重い通信を寄せてスマホのギガを温存する使い方が現実的

ルーターは「速くて大容量な2本目の回線」です。災害時に必要なのは、速さより「止まらないこと」と「電話ができること」なので、求められる性質がそもそも違います。持っているなら活かす、足りない部分は音声SIMで埋める——この整理がいちばん実際的だと思います。

サブ回線そのものの選び方は災害用のサブ回線はeSIMと物理SIM、どちらで持つ?から読んでみてください。