災害の備えとして、モバイルバッテリーを買い、サブ回線を契約した。それでも圏外になることがあります。電波を出している側(基地局)も電気で動いているからです。
先に結論です。
- 基地局は商用電源で動いており、停電時は予備蓄電池と自家発電機でしのぐ。尽きれば止まる
- 「24時間」という数字は全基地局ではない。ドコモは「都道府県庁、市区町村役場等」の重要エリアについて無停電化・バッテリーの24時間化を実施と公表している
- ソフトバンクも「関係官公庁や、災害拠点病院などの重要エリアを中心に」バッテリー増強・発電機配備を進めているとしている
- 人口密集地には、半径約7kmをカバーする災害時専用の「大ゾーン基地局」が全国105か所(ドコモ)
- 止まったあとは移動基地局車・可搬型基地局・船上基地局・ドローン・Starlinkで応急復旧するが、現地に着くまでの時間はかかる
- つまり、「一定時間つながらない」を前提に備えるのが現実的
自分のスマホの電池を守る話は災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定にまとめました。この記事はその逆側、相手(ネットワーク)が落ちる話です。
停電するとなぜ圏外になるのか#
KDDIは、災害時の電源についてこう説明しています。
災害発生時、電力の供給が途絶えると交換設備や無線基地局は機能することができないため、通信局舎では自家発電機を設置するとともに、各無線基地局においても予備蓄電池を設置して、送電線の切断や発電所の停止などの事態に備えています。
ドコモも同様に、交換局では「電源に異常が発生すると、まず、予備バッテリーが動作し、さらに停電が続くとエンジンが稼働して電源のバックアップを行います」としています。
つまり構造はこうです。
| 段階 | 起きること |
|---|---|
| 1. 商用電源が生きている | 通常どおり通信できる |
| 2. 停電発生 | 予備蓄電池・無停電装置に切り替わる |
| 3. 停電が続く | 自家発電機が稼働(燃料が要る) |
| 4. 電池切れ/燃料切れ | その基地局は電波を出せなくなる |
スマホ側がどれだけ元気でも、4に入った基地局のエリアにいれば圏外です。これは端末の故障でも契約の問題でもありません。
「24時間」はどの基地局の話なのか#
ここが誤解されやすいところです。各社は停電対策の強化を公表していますが、対象は全基地局ではなく重要エリアが中心だと明記しています。
ドコモの記載は次のとおりです。
重要エリアである都道府県庁、市区町村役場等の通信を確保するため、基地局の無停電化、バッテリーの24時間化を実施しています。
ソフトバンクは「停電が発生しても24時間以上稼働する基地局」という見出しで、こう説明しています。
災害時に重要な役割を果たす関係官公庁や、災害拠点病院などの重要エリアを中心に、周辺基地局のバッテリー増強や発電機などの配備を強化し、停電時も継続してサービスを提供できるよう努めています。
また、基地局よりも上位にあたる通信設備(ネットワークセンター・通信局舎)については、ソフトバンクが「48時間から最長72時間電力を供給し続けることができるよう、無停電装置(バッテリー)と非常用発電機を備えています」としています。
読み取れることは次の2点です。
- 役所・災害拠点病院のような重要エリアの周辺は、比較的長く生き残る設計になっている
- 逆に言えば、自宅の最寄り基地局が同じ強度とは限らない
「24時間は必ず持つ」と読まないでください。公表されているのは対策を実施している対象範囲であって、あなたの家をカバーする基地局が何時間持つかを示すものではありません。
なお総務省は、電気通信事業者が実施すべき「耐震対策、停電対策、防火対策等を規定した『情報通信ネットワーク安全・信頼性基準』(昭和62年郵政省告示第73号)を改定し、災害時における通信サービスの確保を図っている」としています。制度としての底上げは続いているという位置づけです。
人口密集地を支える「大ゾーン基地局」#
通常の基地局が広範囲で倒れたときの受け皿として、ドコモは大ゾーン基地局を用意しています。2011年の報道発表での説明はこうです。
大ゾーン基地局とは、広域災害・停電時に、人口密集地の通信を確保するため、通常の基地局とは別に、半径約7km、360°のエリアをカバーする災害時専用の基地局です。耐震性の高いビルや鉄塔に設置すると共に、無停電化や伝送路の2ルート化による信頼性を確保した設計としています。
現在の設置状況について、ドコモは「大ゾーン基地局を全国に設置(105か所)」「都道府県ごとには概ね2か所(東京は5か所、大阪は4か所)設置」と公表しています。
半径約7kmは広いように見えますが、1都道府県に概ね2か所です。全域をカバーする仕組みではなく、人口密集地の通信を確保するための最後の砦と理解してください。地方や山間部にいる場合、この救済は届かない可能性があります(山・地方で圏外になりやすいのはなぜ?)。
止まったあと、どう復旧するのか#
基地局が停波しても、各社は応急復旧の手段を持っています。ここを知っておくと「いつまで待てばいいのか」の感覚が変わります。
移動基地局車・可搬型基地局#
被災地に出向いて臨時の基地局を立てる車両です。ドコモは「移動基地局車や可搬型基地局を全国各地に配備しております」としています。
KDDIは車載型・可搬型基地局について「1台で約半径1kmのエリアをカバーすることができます」と説明しています。1台で半径1kmです。広域停電の穴を全部埋められる規模ではありません。
ソフトバンクは配備台数を公表しています(いずれも2026年6月時点)。
| 設備 | 台数 |
|---|---|
| 移動基地局車 | 小型10台・中型50台・大型36台 |
| 可搬型基地局 | 全国250台(うち50台は避難所向けにモバイル通信と無料Wi-Fiを同時提供) |
| 移動電源車 | 全国93台 |
| 可搬型衛星アンテナ | 全国293台 |
| Starlink | 全国600台以上 |
避難所向けの可搬型基地局が50台ある、という点は覚えておくと役に立ちます。避難所に入れば通信環境が用意される可能性はありますが、台数には限りがあるということでもあります。
電源そのものを運ぶ#
基地局の設備が無事で電気だけが足りない場合は、電源を届けるほうが速いことがあります。ドコモは「停電の長期化対策や無線基地局の救済対策として、大中小の移動電源車を配備しています」としています。ソフトバンクの移動電源車は上表のとおり全国93台です。
KDDIは、基地局周辺の太陽光発電パネルについて「災害などで商用電源の供給が滞った場合も、太陽光パネルで発電した電力を活用し、非常用電源の蓄電池を長持ちさせることで、通信が途絶えにくくなります」と説明しています。
道が使えないときの手段#
陸路が絶たれると、車両は入れません。そのための手段も用意されています。
- 船上基地局:KDDIは「北海道胆振東部地震では、日本で初めて船舶型基地局によるエリア復旧を行い、令和6年能登半島地震ではNTTドコモと共同で、陸路が絶たれ復旧が困難だった石川県輪島市の一部沿岸エリアの復旧を図りました」としている
- 有線給電ドローン:ソフトバンクは無線中継システムについて「現地到着から30分以内に構築可能」と説明している
- 衛星バックホール:KDDIは2023年7月から車載型・可搬型基地局のバックホール回線にStarlinkを利用していると公表している
いずれも「現地に到着してから」の話です。発災直後の数時間から数日は、自力でしのぐ前提で考えるのが安全側です。
圏外になったとき、自分がやること#
ここからは読者側の行動です。
1. 端末の問題かエリアの問題かを切り分ける#
再起動や機内モードのオンオフで直るなら端末側、周囲の人も同じなら基地局側です。各社の障害情報ページの見方と切り分け手順は通信障害かも?と思ったらまず確認することにまとめました。停電による停波は「障害情報」に載らないこともあるため、周囲の人の状況が有力な手がかりになります。
2. サブ回線は「別の回線元」で持っておく#
同じ地域が停電していても、各社の基地局は別々の設備です。別の回線網につながるサブ回線があれば助かる可能性があります。ただし格安SIMは自社で基地局を持たないため、契約先の社名ではなくどのキャリアの電波を使うかで選ぶ必要があります。一覧は格安SIMの「回線元」一覧に整理しました。
なお、あるキャリアの設備が広域で使えなくなった場合の救済として、事業者間ローミング(JAPANローミング)があります。2026年7月の熊本地震で実際に提供された内容はJAPANローミングは実際に発動したにまとめています。
3. 基地局に依存しない手段を1つ持つ#
基地局が止まっている間でも使える可能性がある手段です。
- 公衆電話:NTTの回線から給電されるため、停電中でも硬貨で使えます(災害時の公衆電話の使い方)
- 災害用伝言ダイヤル171:電話がつながる状態なら、ネットなしで安否を残せます(災害用伝言ダイヤル(171)の使い方)
- 衛星通信:空が見えれば基地局を経由せずメッセージを送れる機能があります(iPhoneの衛星機能は格安SIMでも使える?)
- ラジオ:受信機のラジオは通信を使いません(災害時の情報収集にラジオは要る?)
4. 電波が戻ったときに動けるようにしておく#
復旧の瞬間に電池が切れていては意味がありません。停電中の充電手段は停電中にスマホをどう充電する?に、自宅側で止まるものは停電すると自宅のWi-Fiと固定電話は止まるにまとめました。
また、復旧直後は安否確認が集中して輻輳が起きます。つながっても電話が通らないことがある理由は災害時に電話だけつながらないのはなぜ?に整理しています。ソフトバンクも輻輳について「電気通信事業法で定められた110番や119番などの重要通信も、この輻輳によりつながりにくくなる場合があります」と説明しています。
今日やっておくチェックリスト#
- 停電で圏外になるのは端末の問題ではないと理解した
- 「24時間」は重要エリア中心の対策であって、自宅の最寄り基地局の保証ではないと理解した
- サブ回線をメインとは別の回線元で持っている(または持つ予定を立てた)
- 公衆電話の場所を1か所以上確認した
- 171の使い方を家族と共有した
- 停電中の充電手段を用意した
- 通信が数時間〜数日止まる前提で、家族の集合場所と行動を決めてある
最後の項目がいちばん効きます。通信が止まっている間の判断は、家族の安否確認ルールの決め方で決めたルールがあるかどうかで変わります。
まとめ#
- 基地局は電気で動く。停電時は予備蓄電池→自家発電機の順でしのぎ、尽きれば停波する
- ドコモの「バッテリーの24時間化」は都道府県庁・市区町村役場等の重要エリアが対象と明記されている
- ソフトバンクの「24時間以上稼働する基地局」も関係官公庁・災害拠点病院などの重要エリア中心
- 通信局舎クラスは48時間から最長72時間の電源を備えるとソフトバンクが公表
- 人口密集地には半径約7km・全国105か所の大ゾーン基地局(ドコモ)。ただし都道府県あたり概ね2か所
- 応急復旧は移動基地局車・可搬型基地局(KDDIは1台で約半径1km)・船上基地局・ドローン・Starlink。ただし到着までの時間がかかる
基地局が止まっている間でも、すぐ近くにいる人との間でならデータをやり取りできます。仕組みと使える組み合わせは圏外でも近くの人にファイルを渡せる?に整理しています。
備えの話は「自分のスマホをどう持たせるか」に寄りがちです。でも実際には、電波を出す側が先に落ちることがあります。そのときに何ができるかを1つでも決めておくと、待ち時間の意味が変わります。
基地局が止まっているあいだ、すぐ近くの家族とだけでも連絡を取る手段としては、端末同士が直接つながる無線機があります。できること・できないことは圏外でも家族と話せる?免許のいらないトランシーバーでできること・できないことにまとめています。