サブ回線を2本持っていても、基地局そのものが止まれば全部まとめて圏外になります。そこで出てくるのが「無線機(トランシーバー)はどうなのか」という話です。

先に結論です。

  • 免許も資格もなしに今日から使えるのは「特定小電力トランシーバー」。ただし電波の出力は0.01W以下で、届くのはごく近い範囲に限られます
  • もう少し遠くまで届かせたいなら「デジタル簡易無線(登録局)」。最大5Wですが、総務省への登録手続きと、1台あたり年200円〜の電波利用料がかかります
  • どちらも相手も同じ規格の無線機を持っていないと成立しません。110番・119番にはつながりません
  • つまり無線機はスマホの代わりではなく、「家族が数百メートル以内で動く場面」を埋める道具です

無線機は電波法のルールがはっきり決まっている分野なので、ここでは総務省の公式情報だけを根拠に整理します。

なぜ無線機の話になるのか#

スマホの通信は、必ず基地局を経由します。相手がすぐ隣にいても、基地局が生きていなければつながりません。停電が長引けば基地局は止まりますし(停電が長引くと基地局が止まる)、そもそも山間部や地方では最初から電波が届かない場所があります(山・地方で圏外になりやすいのはなぜ?)。

これに対して無線機は、端末同士が直接電波をやりとりします。基地局も契約も要りません。この一点だけが、無線機を備える理由です。

同じ発想で「基地局を経由しない」手段としては、AirDropのような端末間の直接通信もあります(圏外でも近くの人にファイルを渡せる?)。ただしあちらはファイルの受け渡しが中心で、声で呼びかけ合う用途には向きません。

免許がいらない無線局は3種類だけ#

無線局を開くには、原則として総務大臣の免許か登録が必要です。総務省の電波利用ポータルは、その例外を次のように整理しています。

区分主な条件
発射する電波が著しく微弱な無線局ラジコン用発振器やワイヤレスマイクなどが該当
市民ラジオの無線局26.9〜27.2MHz帯、空中線電力0.5W以下、技術基準適合証明を受けた設備のみ
小電力の特定の用途に使用する無線局空中線電力1W以下、技術基準適合証明を受けた設備のみ など4条件

3つめの「小電力の特定の用途に使用する無線局」に、コードレス電話や小電力データ通信システムと並んで特定小電力無線局が含まれます。家電量販店で売られている「免許不要トランシーバー」は、基本的にこれです。

特定小電力トランシーバー:買ってすぐ使えるが、出力は0.01W#

総務省は特定小電力無線局について、「総務省で定める一定の条件を満たした無線設備であれば無線従事者資格も無線局免許も不要であるため、広く一般の人々が利用できる」と説明しています。

要件は次の4つです。

  1. 空中線電力が0.01ワット以下である無線局のうち総務省令で定めるもの
  2. 指定された呼出符号または呼出名称を自動的に送受信する機能などを持つもの
  3. 適合表示無線設備のみを使用するもの
  4. 総務大臣が別に告示する用途、電波の型式、周波数、空中線電力に適合するもの

用途の一覧には、テレメーター用やラジオマイク用などと並んで「無線電話用(ラジオマイクに使用するものを除く。)」が挙げられています。これが、いわゆるトランシーバーにあたる用途です。

注目すべきは出力です。0.01ワット=10ミリワット。スマホが基地局と通信するときの出力と比べても小さく、これは「近距離での簡易連絡用」として制度設計されているためです。総務省自身も、特定小電力無線局を「近距離間での簡易連絡用のコミュニケーション手段」と位置づけています。

技適マークは必ず確認する#

総務省は、免許不要をうたいながら技術基準適合証明を受けていない無線設備(不法無線局)があると注意喚起しており、「ご利用の前に、必ず技術基準適合証明マークが貼付されているか確認してください」と明記しています。不法無線局から出る電波は重要無線通信に妨害を与えることがあり、電波法第110条で罰せられます。

海外通販で安く売られている無線機には技適のないものがあります。備えのつもりで違法な機器を買ってしまわないよう、ここは必ず確認してください。

デジタル簡易無線(登録局):最大5Wだが、登録と年間費用がいる#

もう少し遠くまで届かせたい場合の選択肢が、デジタル簡易無線の登録局です。総務省は簡易無線局について、「使用に当たっては、無線従事者の資格は不要ですが、無線局の免許又は登録の手続が必要です」としています。資格試験は不要でも、手続きは必要ということです。

免許局と登録局の違いを、総務省(近畿総合通信局)の一覧から抜き出すと次のようになります。

項目免許局登録局
空中線電力最大5W最大5W(351.10625〜351.19375MHz帯は1W)
レジャー使用不可可
不特定多数との通信不可(同一免許人内に限る)可
レンタル使用不可可
上空使用不可可(351.10625〜351.19375MHz帯のみ)

個人が家族との連絡に使うなら、レジャー使用が認められている登録局が対象になります。

かかる費用#

登録局には、無線機を1台ずつ登録する「個別登録」と、2台以上をまとめて登録する「包括登録」があります。関東総合通信局のページに記載されている金額は次のとおりです(書面申請の場合、令和7年10月1日改正後)。

項目個別登録包括登録
登録申請の手数料(収入印紙)2,730円3,330円
再登録申請の手数料1,730円2,130円
電波利用料(1台あたり)年200円年290円

手数料にはいずれも登録事項証明書の交付請求手数料(1枚480円)が含まれています。電波利用料は令和7年10月1日改定の金額です。

包括登録の場合は、登録申請だけでは手続きが終わりません。登録事項証明書を受け取ったあと、無線機を使いはじめた日から15日以内に「登録局の開設届出書」の提出が必要です。ここを忘れると手続き未完了のままになります。

なお、申請書が届いてから登録事項証明書の交付までは15日程度かかると案内されています。「災害が起きてから登録する」のでは間に合いません。

どれくらい届くのか#

ここは正直に書きます。総務省の公式情報に、到達距離の目安は示されていません。

言えるのは、特定小電力トランシーバーが0.01W以下、デジタル簡易無線の登録局が最大5Wという出力の差です。同じ条件なら出力が大きいほうが遠くまで届きますが、実際に届く距離は間にある建物や地形、高低差で大きく変わります。市街地のビルの陰と、見通しのきく河川敷では別物になります。

「カタログに数km と書いてあったから大丈夫」ではなく、実際に使う予定の場所で、家族と一度試してみるのが唯一の確認方法です。

災害時の法律上の扱い——「非常通信」という例外#

ひとつ気になる点があります。総務省は簡易無線局を「簡易な事務又は個人的用務(人命や財産に影響する通信は含まれていません。)を行うために開設する無線局」と定義しています。人命に関わる通信は、本来の目的には含まれていないわけです。

ただし、電波法には例外があります。非常通信(電波法第52条第4号)です。総務省(四国総合通信局)の説明では、非常通信とは次のように規定されています。

「地震、台風、洪水、津波、雪害、火災、暴動その他非常の事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、有線通信を利用することができないか又はこれを利用することが著しく困難であるときに人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持のために行われる無線通信」

そして無線局は原則として免許状に記載された目的の範囲を超えて運用できませんが、非常通信は行うことができるとされています。

総務省はアマチュア無線についても同様の整理を示しており、非常の事態にあたるかどうか、有線通信が使えない状況かどうかの判断は免許人が行うもので、非常通信は状況に応じて柔軟に行えるとしています(ただしアマチュア無線を使うには無線従事者資格と無線局免許が必要で、非常通信はあくまでボランティアという性格だと明記されています)。

つまり、平常時は「個人的用務」の範囲で使い、本当の非常時には非常通信という枠がある、という二段構えになっています。日常的に家族の連絡用として使い慣れておくこと自体は、制度の想定内です。

できないこと#

無線機を備えるなら、できないことのほうを正確に把握しておく必要があります。

  • 110番・119番にはつながりません。 無線機は端末同士の直接通信です。緊急通報の可否については格安SIMで110番・119番はかけられる?を確認してください
  • 相手も同じ規格の無線機を持っている必要があります。 特定小電力トランシーバーとデジタル簡易無線は別の規格で、互いに通信できません。家族で持つなら同じ規格でそろえる必要があります
  • チャンネルを合わせておく必要があります。 使う前に「何番を使うか」を家族で決めておかないと、現場で探し回ることになります
  • 会話は周囲に聞かれます。 同じチャンネルを使っている他人にも聞こえます。個人情報を読み上げる用途には向きません
  • 離れた家族とは連絡できません。 別の市に住む親との安否確認には使えません。それは災害用伝言ダイヤル(171)や携帯4社の災害用伝言板の役割です
  • 電池が切れれば終わりです。 乾電池で動く機種を選んでおくと、停電時に予備電池だけで運用を続けられます。スマホ側の電源確保は災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?にまとめています

なお、携帯電話網を使って通話する業務用の無線機(IP無線と呼ばれるタイプ)もありますが、これは回線が生きていることが前提です。「回線に依存しない手段」を探しているなら対象外になります。

現実的な使いどころ#

以上を踏まえると、無線機が効くのは次のような場面です。

  • 自宅と避難所を往復するとき、残る人と移動する人の間で連絡を取る
  • 避難所の建物内・敷地内で、はぐれた家族を呼ぶ
  • 山やキャンプで、もともと圏外になりやすい場所を家族で歩く
  • 渋滞した車列で別々の車に乗っているとき

いずれも「数百メートル以内で、同時に動いている家族同士」という条件です。逆に言えば、それ以上の距離をカバーしたいなら無線機ではなく、サブ回線や衛星通信の領域になります。

誰がどの手段を使うかを事前に決めておかないと、手段だけあっても機能しません。この整理は家族の安否確認ルールの決め方にまとめています。

買う前・使う前のチェックリスト#

  • 技適マーク(技術基準適合証明マーク)が貼られているか確認する
  • 家族で同じ規格(特定小電力どうし、またはデジタル簡易無線どうし)にそろえる
  • デジタル簡易無線を選ぶなら、登録手続き(交付まで15日程度)を平常時に済ませる
  • 包括登録なら、使いはじめから15日以内に開設届を出す
  • 使うチャンネルを家族で決めて、紙にも書いて共有する
  • 実際に避難所や自宅まわりで通じるか試す
  • 乾電池で動く機種か、予備電池を用意しているか確認する
  • 通信が止まったときの情報収集用にラジオもあわせて用意する

まとめ#

無線機は、基地局を介さずに直接つながるという一点でスマホにない価値があります。免許も資格もいらない特定小電力トランシーバーなら買ってすぐ使えますし、もう少し遠くまで届かせたければデジタル簡易無線の登録局という選択肢もあります。

ただし出力は0.01W、届くのは近距離。110番にはつながらず、離れた家族とも話せません。スマホの代わりではなく、スマホが全滅した状況で「すぐ近くの家族」とだけつながるための道具、というのが正確な位置づけです。

まずはサブ回線と電源を固めたうえで、それでも埋まらない穴として検討するのが順番だと思います。通信手段全体の組み立ては災害時の連絡手段まとめを、圏外でWi-Fiだけがある状況で何ができるかは圏外でもWi-Fiがあれば連絡できる?をあわせてご覧ください。