災害時の通信の備えというと、衛星通信やサブ回線の契約が注目されがちです。ただ、お金をかけずに今日から準備できることも、実はかなりあります

しかも2026年4月から、契約している携帯会社がダウンしても他社の電波で通信できる仕組みが正式に始まりました。まだあまり知られていない制度なので、ここから解説します。

① JAPANローミング:他社の電波を借りる仕組み(2026年4月開始)

電気通信事業者協会(TCA)によると、「JAPANローミング」のサービスが2026年(令和8年)4月1日から開始されました

災害や大規模障害で契約中の携帯会社のネットワークが使えなくなったとき、他社の設備に切り替えて通信できるようにする仕組みです。対象事業者はNTTドコモ、KDDI/沖縄セルラー電話、ソフトバンク、楽天モバイルの4社です。

提供方式は2種類あります。

方式使えるもの
緊急通報のみ方式110・119・118のみ
フルローミング方式緊急通報、音声通話、SMS、データ通信(データは最大300kbps)

端末が対応している必要があります(重要)

ここは見落とされやすい点です。総務省の説明によると、**JAPANローミングに対応するのは「おおむね令和8年(2026年)春モデル以降のスマートフォン」**とされています。それ以前の端末については、ソフトウェアアップデート等により対応している場合がありますという記載にとどまります。

つまり、制度が始まったからといって、手持ちの端末がすぐに対象になるとは限りません。今使っている機種が対応しているかは、契約先の公式サイトで確認してください。

また総務省は、ローミング中の緊急通報について電話番号や位置情報を送信できない場合があり、緊急通報受理機関から呼び返し(コールバック)ができない場合があるとしています。ローミングで110番・119番につながったときは、折り返しの電話が期待できない前提で、現在地と用件を最初にはっきり伝えることが重要です。

格安SIMユーザーも対象です

ここが重要な点です。TCAの説明では、上記4社の設備を使うMVNO(格安SIM)の利用者も、音声通話・SMSの契約があれば緊急通報・音声通話・SMSが利用できるとされています。データ通信については一部のMVNOのみ対応です。

楽天モバイルの発表資料でも、MVNO契約者は「フルローミング方式ではデータ通信を除き、音声通話・SMSをご利用いただけます」と案内されています。救済されても、データ通信までは戻らない前提で考えておいたほうが安全です。だからこそ、別の回線網のサブ回線を自分で用意する意味があります(格安SIMの「回線元」一覧)。

「格安SIMだから災害時の救済措置から外れる」わけではない、という点は知っておく価値があると思います。

ただし、これは契約先のネットワークが落ちたときの救済策であって、常に他社の電波を使えるわけではありません。また発動するかどうかは事業者の判断によります。

② 緊急通報(110・119・118)には位置情報が自動で通知される

総務省によると、電気通信事業者は緊急通報を扱う際に次の機能を持つことを義務付けられています。

管轄の緊急通報受理機関(警察、海上保安庁、消防)へ接続する機能/発信者の位置情報等を通知する機能/回線を保留または呼び返し等を行う機能

携帯電話の場合、位置情報はGPS位置情報通知対応端末でGPSを利用できるときはGPS測位による位置情報が、それ以外の場合は基地局の場所等から算出される位置情報が、電話番号とともに送信されます。利用者が特別な操作をする必要も、特別な契約も不要です。

ただし総務省は、GPSの受信状況や電波状況によっては正確な位置を通知できない可能性があるため、緊急通報の際には口頭でも現在地や目標物を伝えるようにと案内しています。ここは覚えておく価値があります。

なお、精度は方式によって差があります。GPS測位なら電波状況が良ければ数十メートル以下、基地局による位置情報の場合は数百メートルから10キロメートル程度とされています。

衛星通信では110番・119番に「電話」はかけられません

衛星経由では音声通話ができず、110番・119番に電話をかけることもできません。 ソフトバンクの公式ページにも「通話および緊急通報は利用不可」と明記されています。「衛星があるから110番できる」という誤解はしないようにしてください。

ただしauでは、2026年5月28日から「au Starlink Direct SOSセンター」の運用が始まりました。対応アプリの「衛星SOS」ボタンから、メッセージで緊急通報受理機関へ通報を連携してもらう仕組みです(電話による通報の代わりではなく、対応アプリを事前に入れておく必要があります)。詳しくはLINEの衛星モードは格安SIMで使える?で解説しています。

③ 災害用伝言板(web171)と災害用伝言ダイヤル(171)

NTTが提供する安否確認の仕組みです。電話番号をキーにして伝言を登録・確認できます。

  • web171(インターネット経由):https://www.web171.jp/ にアクセスし、伝言を登録したい電話番号をハイフンなしの数字だけで入力
  • 登録した伝言は、全国および海外から同じ電話番号をキーに閲覧できる
  • 伝言の最大蓄積数は20件、保存期間は最大6か月(20件を超えると古い伝言から削除される)
  • 1伝言あたりの入力文字数は100文字以下

一方の171(電話経由)は、171にダイヤルして音声で伝言を残す仕組みです。インターネットが使えなくても、申し込みや契約なしで使えます。操作手順と「登録できるのは被災地の電話番号だけ」という制約は災害用伝言ダイヤル(171)の使い方で解説しています。なお171とweb171は相互に連携しており、片方に登録した伝言をもう片方から確認できます。

使えるようになる条件

いつでも使えるわけではありません。NTTの説明では、震度6弱以上の地震発生時などに利用可能になります。震度5強以下やその他の災害では、通信状況を踏まえてNTT東日本/西日本が提供を判断し、開始時はテレビ・ラジオ・公式サイトで告知されます。

事前にやっておくべきことは、家族間で「安否確認はweb171を使う」と決めておくことです。災害が起きてから使い方を調べるのは現実的ではありません。NTT東日本・西日本は体験利用の機会を設けており、**毎月1日と15日(0時〜24時)**のほか、正月三が日、防災週間(8月30日9時〜9月5日17時)、防災とボランティア週間(1月15日9時〜1月21日17時)に試せます。利用料は無料です(インターネット接続費用は別途)。毎月2回チャンスがあるので、一度家族で試しておくと安心です。

なお、携帯4社もそれぞれ自社の災害用伝言板を提供していますが、契約先によっては自分の安否情報を登録できません(povo・UQモバイルは公式にweb171を案内しています)。各社の条件の違いと、格安SIMユーザーがどこに登録すべきかは携帯4社の災害用伝言板の使い方にまとめました。

④ 00000JAPAN(ファイブゼロジャパン):災害時の無料Wi-Fi

大規模災害や通信障害のときに、携帯会社や施設がWi-Fiを無料開放する統一SSIDです。スマホのWi-Fi設定から「00000JAPAN」を選ぶだけで、登録も認証もなしにつながります。

当初は大規模災害時のみでしたが、2023年5月18日のガイドライン改定で対象が広がりました。無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)の説明では、次のようになっています。

災害による通信サービスの停止だけでなく通信事業者のネットワーク障害等のサービス停止の際にも、通信事業者の要請に基づき、00000JAPANの発動が可能となりました。

つまり、地震などの災害だけでなく、携帯会社の通信障害でも発動され得るということです。ただし発動するかどうかは通信事業者の要請にもとづく判断であり、障害が起きれば必ず開放されるわけではありません。

セキュリティ上の注意(重要)

00000JAPANは暗号化されていません。 緊急時のつながりやすさを優先しているためで、総務省も注意喚起を出しています。

  • ログインID・パスワード・クレジットカード番号などの入力は避ける
  • 通信するならHTTPSのサイトやVPNを使う
  • 偽のアクセスポイントに接続してしまうリスクもある

安否を伝える、情報を見るといった用途に絞って使うのが現実的です。接続手順と、やってはいけない使い方は00000JAPANの安全な使い方で詳しく解説しています。

⑤ スマホ本体の緊急機能

iPhone:衛星経由の緊急SOS

iPhoneには、キャリアの衛星サービスとは別に、Apple独自の「衛星経由の緊急SOS」があります。 Appleの発表によると、日本では2024年7月30日から提供されています。

項目内容
対応機種iPhone 14以降のすべてのモデル
日本での提供開始2024年7月30日
料金新規購入・新規アクティベーションから2年間無料
できること圏外での緊急通報、「探す」アプリでの衛星経由の位置情報共有、最大10件の緊急連絡先への自動共有

無料期間については、iPhone 14・iPhone 15を2025年9月9日(米国西部時間午前0時/日本時間午後4時)より前にアクティベーションした場合、衛星機能への無料アクセスがさらに1年延長されるとAppleが案内しています。

2025年12月から「衛星経由のメッセージ」も日本で使えるようになりました

これは前回の記事公開後に追加された機能です。Appleは2025年12月9日、日本で「衛星経由のメッセージ」の提供を開始しました。

  • 対応機種:iPhone 14以降(iOS 18以降)、Apple Watch Ultra 3(watchOS 26以降)
  • できること:iMessageとSMSでのテキスト・絵文字・Tapbackの送受信
  • 衛星経由で送信されるiMessageはエンドツーエンドで暗号化される

緊急SOSが「助けを呼ぶための機能」なのに対し、こちらは圏外から家族や友人に安否を伝えるための機能です。キャリアの衛星サービスを契約していなくても、対応するiPhoneであれば使えるという点で、備えの選択肢としては大きな追加だと思います。

ここが重要な違いです。キャリアの衛星サービス(Starlink Direct)では緊急通報ができませんが、Appleの衛星経由の緊急SOSは緊急通報サービスへの通報そのものが目的の機能です。同じ「衛星」でも役割が異なります。

利用には空が見える環境が必要で、Appleは「視界が開けた条件下ではわずか15秒でメッセージを送受信できる」としています。ただし衛星の移動や帯域の制限により、条件によっては数分かかる場合もあると説明されています。

Android(Pixelの例):緊急SOS

Google Pixelには「緊急SOS」機能があります。設定しておくと、緊急通報や、緊急連絡先への位置情報共有、緊急時の動画撮影などをすばやく実行できます。

Googleのヘルプによると、事前に次のような設定ができます。

  • 地域の緊急通報番号の設定
  • 緊急連絡先への位置情報共有
  • 「緊急時の動画を撮影する」機能と、動画のバックアップ後の自動共有
  • 起動方法を「長押しでアクションを開始」か「カウントダウン後に直ちにアクション開始」から選択

また、緊急情報サービスアプリの「あなたの情報」から**「医療に関する情報」**(アレルギー、投薬情報など)を登録しておけます。意識がない状態で発見されたときに役立つ情報です。

知っておくべき制限

Googleのヘルプには、機内モードやバッテリーセーバーがオンになっている場合、緊急SOSは機能しませんと明記されています。節電のためにバッテリーセーバーを常時オンにしている方は注意してください。省電力モードでほかに何が止まるかは災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定に整理しています。

起動方法は機種やAndroidのバージョンによって異なります。ご自身の端末での操作方法は、Google公式のヘルプページで確認してください。誤発信を防ぐ意味でも、事前に一度設定画面を開いて確認しておくことをおすすめします。

今日できることチェックリスト

お金をかけずにできる備えを整理すると、次のとおりです。

  • 家族と「安否確認はweb171を使う」と決めておく
  • web171の使い方を一度試しておく
  • スマホの緊急SOS設定と緊急連絡先を登録しておく
  • 緊急速報メール(緊急地震速報)がオンか確認しておく(格安SIMでも受信できる?
  • 医療情報(アレルギー・持病・投薬)を登録しておく
  • iPhone 14以降をお使いなら、衛星経由の緊急SOS・衛星経由のメッセージが使える状態か確認しておく
  • 00000JAPANは暗号化されていないと家族に共有しておく
  • 手持ちの端末がJAPANローミングに対応しているか、契約先の公式サイトで確認しておく
  • モバイルバッテリーを充電しておく

通信手段をいくら用意しても、バッテリーが切れればすべて使えません。備えの優先順位としては、電源の確保がかなり上位に来ます。容量の決め方や安全な製品の選び方は、災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?で解説しています。停電が長引いてバッテリーを使い切ったあとの充電手段は、停電中にスマホをどう充電する?にまとめました。

まとめ

災害時の通信は「衛星があるかどうか」だけの話ではありません。2026年4月に始まったJAPANローミングのように、契約している回線が使えなくなったときの受け皿は少しずつ整備されています。ただしJAPANローミングは端末側の対応が前提で、対象はおおむね2026年春モデル以降とされています。制度ができたことと、自分の端末で使えることは別だという点は押さえておいてください。

そのうえで、回線をもう1本持っておきたい場合はpovo2.0を災害用のサブ回線にする方法を、衛星通信を検討したい場合はLINEの衛星モードは格安SIMで使える?をあわせてご覧ください。

また、契約を増やさずにできる備えとして、古いスマホを災害用の予備端末にする方法も解説しています。引き出しに眠っている端末があるなら、こちらが先です。

安否の連絡とは別に、自分から110番・119番へ通報できる状態かどうかも確認しておきたいところです。データ専用SIMや通話アプリ経由では発信できないケースを格安SIMで110番・119番はかけられる?で整理しました。

なお、実際につながらなくなったときに「障害なのか自分の端末なのか」を切り分ける手順は、通信障害かも?と思ったらまず確認することにまとめています。各社の公式障害情報ページもそちらに一覧で載せています。

障害でも端末の不調でもなく、通信の集中(輻輳)を避けるために携帯会社が自ら通信を規制していることもあります。この場合は音声通話よりテキスト系が通りやすいという違いがあるため、災害時に電話だけつながらないのはなぜ?もあわせてご覧ください。

スマホがまったく使えなくなった場合の最終手段としては、公衆電話が残ります。停電時でも硬貨で発信できる仕組みや、避難所の特設公衆電話については災害時の公衆電話の使い方で解説しています。

連絡そのものが取れない場合でも、事前に設定してあれば家族の位置だけはわかることがあります。iPhoneの「探す」とGoogleマップの現在地の共有の設定手順、そして「相手の通信が切れると更新が止まる」という限界は災害前に家族と位置情報を共有しておくにまとめました。

ここまでの手段は、家族が同じ使い方を共有していて初めて機能します。どの番号をキーにするか、どの手段から試すか、会えないときにどうするか——事前に決めておく6項目を家族の安否確認ルールの決め方にまとめました。費用はかからないので、手段をそろえる前にこちらを先に片付けるのが効率的です。


この記事の情報について:本記事は電気通信事業者協会(TCA)、総務省、NTT東日本・西日本、無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)、Apple、Google公式ヘルプ、ソフトバンク、auの各公式情報をもとに、2026年8月1日時点で確認した内容です。制度・提供条件は変更される場合があります。緊急時は自治体・消防・警察等の公的な案内に従ってください。