大きな災害のあと、「スマホが圏外でも通じる衛星電話を自分でも持っておけないか」という話がよく出ます。報道で自治体や消防が衛星電話を使う場面を見れば、自然な発想だと思います。

先に結論です。

  • 国内で契約できる衛星携帯電話は法人向けが中心。KDDIのインマルサット端末は公式に「本製品は法人専用端末です。個人のお客さまへは提供しておりません。」と明記されている
  • 月額基本料は1万円前後。ワイドスターⅢのタイプMプランは提供開始時の案内で月額基本使用料10,450円、KDDIのイリジウムは12,600円/月(プラン1)、インマルサットは10,500円/月(プランS・2025年10月1日改定後)
  • 衛星電話は音声通話ができるのが最大の違い。スマホの衛星通信(au Starlink Directなど)は現時点でメッセージ中心で、音声通話には使えない
  • 個人の現実的な備えは、衛星電話を買うことではなく、スマホ側の衛星機能を使える状態にしておくことと、別回線・伝言板を用意しておくこと

順に、公式に確認できる範囲で見ていきます。

「衛星電話」と「スマホの衛星通信」は別物#

まず混同しやすいところを整理します。同じ「衛星」でも、次の2つはまったく別のサービスです。

衛星電話(専用端末)スマホの衛星通信
端末専用の衛星携帯電話手持ちのスマホ(対応機種)
音声通話できる現時点ではできない
主な契約先法人向けが中心携帯各社の一般契約に付随
月額1万円前後追加料金なしの場合がある
使う場所空が見える屋外空が見える屋外

auは自社の衛星サービスについて、専用アンテナや追加機材は不要としたうえで、音声通話(110・119などの緊急通報を含む)は利用できないと案内しています。ここが衛星電話との決定的な差です。スマホの衛星通信で何ができるのかはau Starlink Direct SOSとは、iPhoneの衛星機能は格安SIMでも使える?、LINEの衛星モードは格安SIMで使える?にそれぞれまとめています。

つまり「衛星なら電話がかけられる」というイメージは、専用端末を持っている場合の話です。

ワイドスターⅢ(NTTドコモ)#

ドコモの衛星電話サービスです。2023年9月20日のお知らせで、2023年10月11日から提供を開始すると案内されました。

サービスエリアについては、次のように書かれています。

静止衛星により日本全土および日本沿岸から約200海里をサービスエリアとし

海上を含めて日本国内をカバーする設計、ということです。音声通話については、はっきりと緊急通報に触れています。

音声通話では、携帯電話番号(0A0)による発着信や緊急通報(110・118・119)が利用可能です

110番・118番・119番がかけられると明記されている点は、スマホの衛星通信との大きな違いです。格安SIMの契約種別によって緊急通報の可否が変わる話は格安SIMで110番・119番はかけられる?にまとめていますが、衛星電話はその外側にある選択肢になります。

料金は、同じお知らせで次のように案内されています。

月額基本使用料10,450円(無料通話・SMS分2,200円を含む)からご利用いただけます

あわせて提供開始時のキャンペーンについて、「タイプMプランご契約のお客さまは、ドコモの衛星電話サービス『ワイドスターⅡ』のタイプMプランと同額の月額5,390円からご利用いただけます」と書かれています。

なお、この記事の料金はいずれも提供開始時または改定時点の案内です。契約を検討する段階では、必ず現在の公式料金表をご確認ください。

イリジウム衛星携帯電話(KDDI)#

KDDIが法人向けに提供している衛星携帯電話です。端末は「イリジウム Extreme」で、衛星の構成が他と違います。

上空780kmに66機の低軌道周回衛星

高度780kmの低軌道衛星を66機使う方式です。低軌道の衛星が地球を回り続けるため、極地を含めて広く使えるとされています。

月額基本料金(免税)は、2025年10月1日改定として次のように案内されています。

プラン月額基本料
プラン1(無料通信2,000円含む)12,600円/月
プラン2(無料通信1,000円含む)11,600円/月

使える場所には条件があります。

山間や建物の中で、衛星との間に遮蔽物があり、衛星が捕捉できない場所では通話できない場合があります。

屋内では使えないという点は、スマホの衛星通信とまったく同じ制約です。「衛星電話さえあれば家の中でも通じる」わけではありません。

インマルサット衛星携帯電話(KDDI)#

同じくKDDIが法人向けに提供しているサービスで、端末は「IsatPhone 2」です。衛星の方式はイリジウムと対照的です。

地上から遠く離れた(高度約3万6千km)の静止人工衛星に電波を送信するため

高度約36,000kmの静止衛星を使います。できることは次のように案内されています。

音声通話はもちろん、ショートメッセージ・Eメール・GPS位置情報などもご利用いただけます。

そして、この記事の出発点になった疑問への答えが、このページにはっきり書かれています。

本製品は法人専用端末です。個人のお客さまへは提供しておりません。

月額基本料は、2025年10月1日の改定でプランS(無料通信1,000円含む)が7,500円/月から10,500円/月に変わったと案内されています。

利用できない地域の条件もあり、タイ国内・タイ領海内・タイ領空内において高度10,000フィート未満での利用が禁止、タイ船籍船については全世界で利用が禁止、と書かれています。渡航先によっては持ち込めない機材だということです。

3つを並べると#

公式に確認できた範囲を整理すると、次のようになります。

ワイドスターⅢイリジウムインマルサット
提供NTTドコモKDDI(法人向け)KDDI(法人向け)
衛星静止衛星低軌道66機・高度780km静止衛星・高度約3万6千km
エリア日本全土と日本沿岸から約200海里全国(遮蔽物がある場所は不可)グローバル(一部地域に制限)
月額基本料10,450円(タイプM・提供開始時の案内)12,600円/11,600円10,500円(プランS・改定後)
緊急通報110・118・119が利用可能と明記当該ページでは確認できず当該ページでは確認できず
個人契約——提供していないと明記

どれも月額1万円前後で、年間では12万円前後になります。スマホのサブ回線を1本持つ費用とは桁が違います。維持費の比較は災害用サブ回線は月いくらで維持できる?をご覧ください。

行政側は衛星をどう使っているか#

個人が衛星電話を持てないとして、被災地の通信はどう確保されるのか。総務省消防庁の令和7年版消防白書には、次のように書かれています。

機動性のある衛星車載局車や可搬型衛星地球局を整備している。

また、公衆網が使えなくなった場合への備えとして、非常通信協議会の取り組みが説明されています。

非常通信協議会では、公衆網や前述の消防防災通信網が不通となった場合に備え、防災関係機関等が管理している自営通信網を活用した市町村、都道府県及び国の間の通信ルートを策定し、非常通信訓練を定期的に実施することで、非常時における通信の確保に努めている。

住民向けの伝達手段としては、市町村防災行政無線の整備率が公表されています。

種別整備率
同報系(屋外スピーカー等・代替設備を含む)97.0%(令和7年3月末現在)
移動系(庁舎と車両・防災関係機関を結ぶ)69.9%(令和7年3月末現在)

つまり、衛星を使った通信は行政・事業者の側で用意されているという前提があります。個人が同じ装備をそろえる必要はなく、むしろ「行政の情報をどう受け取るか」を整えるほうが現実的です。屋外スピーカーが聞こえない状況に備える意味で、災害時の情報収集にラジオは要る?もあわせて確認しておくと役に立ちます。

携帯各社の応急復旧も衛星を使う#

基地局が止まったときの復旧手段にも衛星は登場します。停電で基地局が止まる仕組みと、移動基地局車・船上基地局などによる応急復旧の流れは停電が長引くと基地局が止まるに整理しました。

ここで押さえておきたいのは、応急復旧には現地に到着するまでの時間がかかるという点です。その空白を埋めるのが、個人側の備えになります。

格安SIMユーザーの現実的な備え#

衛星電話が個人の選択肢に入らないなら、何をしておけばよいか。優先順位はこうなります。

1. スマホの衛星機能を「使える状態」にしておく

対応機種であれば、追加料金なしで使える場合があります。ただし、圏内にいるうちにOSとアプリを更新しておく必要があるなど、事前準備が要ります。au Starlink Direct SOSとはの「事前にやっておく4つの準備」と、iPhoneの衛星機能は格安SIMでも使える?を確認してください。格安SIMで使えるかは回線元と契約によって変わります。

2. 回線をもう1本、別の回線網で持つ

衛星より先に効くのは、地上回線の冗長化です。どの回線網を選ぶかは格安SIMの「回線元」一覧、維持費は災害用サブ回線は月いくらで維持できる?にまとめています。

3. 通信が全滅しても使える連絡手段を決めておく

災害用伝言板・伝言ダイヤル(171)・公衆電話は、衛星通信がなくても機能します。災害時の連絡手段まとめと家族の安否確認ルールの決め方が入口です。

4. 電源を確保する

衛星でも地上回線でも、端末の電池が切れれば終わりです。災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?から確認してください。

今日できる確認リスト#

  • 自分のスマホが衛星通信の対応機種かどうかを公式の対応機種一覧で確認した
  • 対応機種なら、OSとアプリを最新にした(圏内にいるうちに)
  • 衛星通信では音声通話・緊急通報ができないことを家族と共有した
  • メイン回線とは別の回線網のサブ回線を用意した、または検討した
  • 伝言板・171の使い方を家族で決めた
  • モバイルバッテリーの容量と充電状態を確認した

まとめ#

  • 国内の衛星携帯電話は法人向けが中心。KDDIのインマルサット端末は「個人のお客さまへは提供しておりません」と明記
  • 月額はワイドスターⅢが10,450円(タイプM・提供開始時の案内)、イリジウムが12,600円/11,600円、インマルサットが10,500円(プランS・2025年10月1日改定後)
  • ワイドスターⅢは110・118・119が利用可能と明記。スマホの衛星通信は音声通話に使えない
  • イリジウムは「山間や建物の中で、衛星との間に遮蔽物があり、衛星が捕捉できない場所では通話できない場合があります」——屋内では使えない制約はスマホの衛星通信と同じ
  • 行政側は衛星車載局車・可搬型衛星地球局を整備済み。個人が同じ装備を持つより、スマホの衛星機能・別回線・伝言板・電源を整えるほうが効く

「衛星電話を買う」は、費用と契約条件の両面で個人向けの備えにはなりません。そのぶんの手間を、今日できる4つの準備に回すほうが確実です。