災害用伝言板も、171も、家族との合流も、すべて「相手の電話番号がわかること」が出発点になります。ところがその電話番号は、たいていスマホの中にしかありません。端末が水没しても、落として割っても、電池が上がったままでも、連絡先は取り出せなくなります。
しかも格安SIMのユーザーには、もうひとつ落とし穴があります。ドコモやauが用意しているバックアップサービスは、回線契約が条件になっていることがあるのです。
先に結論をまとめます。
- 連絡先は回線ではなくアカウント(Apple Account/Googleアカウント)に紐づく。だから格安SIMでも、iCloudやGoogleの同期は普通に使える
- iPhoneは「設定」>[ユーザ名]>「iCloud」>「連絡先」をオン、AndroidはGoogleアカウントに同期。まずこれが入口
- 同期はバックアップではない。片方で消せば、もう片方でも消える。だからvCard(.vcf)で書き出して別の場所に置くのが本当の保険
- 消したときの猶予は、Googleは30日(ゴミ箱・変更の取り消しとも)。iCloudはアーカイブから復元でき、表示までに最大24時間かかることがある
- ドコモ「データ保管BOX」は「ドコモのケータイ回線契約をお持ちのお客さま」向け。格安SIMでは使えない。一方au「データお預かり」はau回線なしでもPontaパス加入で使える
- iPhoneはSIMカードに連絡先を保存しません(Apple公式)。SIMは「読み込む」ことはできても「逃がし先」にはならない
- クラウドは通信と電池が前提。最後の一手として、キーになる数件は紙で持つ
① 連絡先は「回線」ではなく「アカウント」の持ち物#
最初にここを押さえておくと、あとの話が全部つながります。
スマホの連絡先は、通信事業者ではなくApple AccountかGoogleアカウントに保存されています。つまり、ドコモからmineoに乗り換えても、povo2.0を追加しても、連絡先の扱いは変わりません。回線を解約しても、アカウントが生きていれば連絡先は残ります。
これは災害前に家族と位置情報を共有しておくで書いた位置情報の共有とまったく同じ構造です。格安SIMだから不利、ということはありません。
不利になるのは、次の②〜⑤で扱う「キャリア側のクラウド」を当てにしていた場合だけです。
② iPhone:iCloudの同期をオンにする#
Appleのサポートは、iCloudで連絡先を使う手順をこう案内しています。
「設定」>[ユーザ名]>「iCloud」を開きます
そのうえで、「すべてを見る」(または「すべてを表示」)をタップして、「連絡先」をオンにします。
あわせて、次の注意書きがあります。
それぞれのデバイスで、同じApple Accountにサインインしていることを確認してください
予備端末を持っている人はここが要点になります。同じApple Accountでサインインしていない予備端末には、連絡先は降りてきません。 予備端末の準備そのものは古いスマホを予備端末として使うにまとめています。
なお、iCloudの無料容量は5GBです。連絡先そのものは軽いデータですが、写真やバックアップで容量が埋まっていると同期がうまく回らないことがあります。容量の状況は一度見ておいてください。
ひとつ知っておきたいこと:iCloudの連絡先は端末間の暗号化ではない#
Appleは、iCloudのデータ保護についてこう明記しています。
連絡先とカレンダーは、エンドツーエンドの暗号化のサポートが組み込まれていない業界標準(CalDAVおよびCardDAV)をベースに構築されています。
「高度なデータ保護」をオンにしても、連絡先はエンドツーエンド暗号化の対象になりません(転送中とサーバ上では暗号化され、キーはAppleが保管します)。実用上の困りごとが出る話ではありませんが、「クラウドに置く」とはどういうことかを知ったうえで使うほうが健全です。
③ Android:Googleアカウントへの同期とバックアップ#
AndroidはGoogleアカウントへの同期が基本です。Googleのヘルプは、Androidのバックアップ対象をこう説明しています。
スマートフォンのデータは Google アカウントに自動的にバックアップされます
対象として挙げられているのは、「アプリとアプリデータ」「通話履歴」「連絡先」「デバイスの設定」「SMS メッセージと MMS メッセージ」です。連絡先はここに含まれます。
容量については次の記載があります。
Google アカウントでは、最大 15 GB のストレージを無料でバックアップできます
設定の場所は、「設定」>「システム」>「バックアップ」>「Google ドライブへのバックアップ」です。復元は「設定」>「Google」>「セットアップと復元」>「連絡先の復元」から行い、復元元のアカウントや端末を選びます。
もうひとつ、Googleは条件としてこう案内しています。
バックアップ データを保護するには、スワイプや Smart Lock ではなく、PIN、パターン、パスワードのいずれかによる画面ロックを使用します
画面ロックを設定していない端末は、そもそも守られないという前提です。
④ ここが本題:「同期」はバックアップではない#
多くの人が対策済みだと思い込んでいるのが、この点です。
同期は、消したことも同期します。 端末で連絡先を1件消せば、クラウド側でも消えます。別の端末を開いても、そこでも消えています。同期は「同じ状態に保つ仕組み」であって、「過去の状態を保存しておく仕組み」ではありません。
だから、同期とは別に、書き出したファイルを1つ持っておく必要があります。連絡先はvCard(.vcf)という形式で書き出せます。
iPhone/iCloud.comから書き出す#
Appleのサポートによると、iCloud.comでの手順は次のとおりです。
- icloud.com/contacts にアクセスしてApple Accountでサインインする
- リスト上部の「操作」ボタンから「すべての連絡先を選択」を選ぶ
- 「共有」ボタンを選び、「vCardを書き出す」を選ぶ
複数選択したときは、選んだ全連絡先を含むvCardが1つ書き出されます。読み込むときは、右側の「追加」ボタンから「連絡先を読み込む」を選び、vCardを指定します。読み込まれた連絡先は「すべての連絡先」リストに追加されます。
Android/連絡帳アプリから書き出す#
Googleのヘルプに沿った手順は次のとおりです。
- 連絡帳アプリを開く
- 「修正と管理」>「ファイルへエクスポート」をタップ
- エクスポート対象のアカウントを選ぶ
- 「.vcf にエクスポート」をタップ
書き出した.vcfファイルは、同期先とは別の場所に置いてください。iCloudの連絡先を書き出したなら別のクラウドやパソコンへ、Googleの連絡先を書き出したなら同様に別の置き場所へ、という考え方です。同じアカウントの中に置いても、アカウントが使えなくなった瞬間に一緒に届かなくなります。
書き出したファイルは、家族の写真や保険証券の写しと同じ扱いで保管するのが現実的です。ほかの重要データと一緒に管理する話は災害時に家族と一次情報を共有する備えにも通じます。
⑤ 消してしまったときに戻せる期間#
万一消してしまった場合、猶予はあります。ただし無期限ではありません。
Googleの場合、ヘルプには次の3つが明記されています。
ゴミ箱内で 30 日が経過すると、連絡先は完全に削除されます。
過去 30 日以内に削除した連絡先は、ゴミ箱から元に戻すことができます。
過去 30 日間に連絡先に加えたすべての変更を一括で元に戻すことができます。
削除の取り消しも、変更の取り消しも、30日が区切りです。
iCloudの場合は、アーカイブされたバージョンから復元します。iCloud.comのツールバーのアプリランチャーから「データの復旧」を選び、「連絡先を復元」を選びます。ここでAppleは次のように注意しています。
アーカイブが表示されるまでに最大24時間かかる場合があります
iCloudが連絡先の復元を完了するまで変更を加えないでください。復元の処理中は、どんな変更を加えても保存されません
つまり、災害の当日に思い立って復元しても、その場では間に合わない可能性があるということです。復元は「事前に試しておく手順」であって、「その場の対処」ではありません。
⑥ 格安SIMだとキャリアのクラウドはどうなるか#
ここが格安SIMユーザー固有の論点です。以前ドコモやauを使っていて、そのバックアップアプリを当てにしている人は要注意です。
NTTドコモ「データ保管BOX」は、公式サイトに提供条件がこう書かれています。
ドコモのケータイ回線契約をお持ちのお客さまがご利用になれます。
月額使用料は無料で、あらかじめ5GBが使えますが、ドコモ回線が前提です。さらに、料金プラン「ahamo」「irumo」「ドコモ mini」の場合は、「dフォト(プリントサービス機能)」または「クラウド容量オプション」のいずれかの申込みが必要とされています。ドコモから格安SIMに乗り換えた時点で、ここは選択肢から外れます。
au「データお預かり」は事情が違います。公式サイトでは、対象として「au回線契約中」と「au回線契約なし(Pontaパスへのご加入が必要です)」の両方が案内されています。保存容量はPontaパス会員が50GB、Pontaパス非会員が1GB(非会員側は5G NET・LTE NET加入が条件)で、預けられるデータには「アドレス帳」が含まれ、最大3000件とされています。
| 提供条件 | 連絡先の扱い | |
|---|---|---|
| ドコモ データ保管BOX | ドコモのケータイ回線契約が必要(ahamo等は別途申込み) | 格安SIMでは対象外 |
| au データお預かり | au回線契約中、またはau回線なしでPontaパス加入 | アドレス帳を最大3000件 |
とはいえ、格安SIMユーザーにとっての本線は②〜④のApple/Googleの仕組みです。キャリアのクラウドは、条件が回線に紐づく以上、乗り換えのたびに前提が崩れます。回線に依存しない場所に置いておくほうが、備えとしては壊れにくいという整理になります。回線そのものの選び方は格安SIMの回線元(MNO)一覧を参考にしてください。
⑦ 「SIMカードに入れておけばいい」は成立するか#
昔の携帯電話には、電話帳をSIMカードに保存する機能がありました。ではSIMを逃がし先にできるかというと、iPhoneでは無理です。Appleは明記しています。
iPhoneはSIMカードに連絡先を保存しません。複数のiPhone間で連絡先を転送する場合は、iCloudや別のメールアカウントを使ってバックアップするか、またはデバイス間でコンテンツを転送できます。
読み込むことはできます。「設定」>「アプリ」>「連絡先」>「SIMの連絡先を読み込む」で、SIMに保存された連絡先をiPhoneに取り込めます。ただしAppleは、読み込める情報は前の端末がSIMにどう保存したかに依存すると注意しています。
つまりSIMは入口にはなるが、出口にはならないということです。予備端末にSIMを挿し替える運用を考えている人は、予備端末にSIMを挿し替えるときの注意とあわせて、「SIMを移しても連絡先は移らない」前提で準備してください。eSIMを選んでいる場合は、そもそも物理的な挿し替えができないので、なおさらアカウント側の同期が要になります(eSIMと物理SIM、災害時にどちらが有利か)。
⑧ クラウドの前提を忘れない#
ここまでの手段は、すべて通信が生きていることと電池が残っていることが前提です。
通信について。 復元にはインターネット接続が要ります。圏外や輻輳のなかで復元をかけるのは現実的ではありません。つながらないときにできることは圏外でもWi-Fiでできることに、通信量が心配なときは災害時にデータ容量が尽きたらにまとめています。
電池について。 復元や同期は端末の電力を使います。災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定と災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?を先に押さえておくと、判断の余裕が変わります。
端末について。 端末が水没して起動しない状態からデータを取り出すのは、そもそも別の問題になります(スマホが水没したときの対処)。端末ごと失った場合は、復元より先に回線を止める手続きが来ます(災害でスマホをなくしたら、まず回線を止める)。
だからこそ、最後の一手は紙になります。クラウドも書き出しファイルも届かない状況で、公衆電話から家族にかけるには、番号を覚えているか、書いたものを持っているかしかありません。誰の番号を紙で持つべきかは家族の安否確認ルールの決め方の「キーにする電話番号を1つ決める」に整理しています。公衆電話のかけ方は災害時の公衆電話の使い方を参照してください。
チェックリスト#
- iPhoneは「設定」>[ユーザ名]>「iCloud」>「連絡先」がオンになっているか確認した
- 予備端末がある場合、同じApple Accountでサインインしているか確認した
- AndroidはGoogleアカウントに連絡先が同期されているか確認した
- Androidの画面ロック(PIN・パターン・パスワード)を設定した
- 同期はバックアップではない(消したことも同期される)と理解した
- 連絡先をvCard(.vcf)で書き出し、同期先とは別の場所に保管した
- 消したときの猶予がGoogleは30日、iCloudはアーカイブからの復元(表示に最大24時間)だと知っている
- 復元手順を平常時に一度試した(当日ぶっつけにしない)
- ドコモ「データ保管BOX」はドコモ回線が条件で、格安SIMでは使えないと理解した
- iPhoneはSIMカードに連絡先を保存しないことを知っている
- キーになる数件の電話番号を紙で持っている
連絡先を失わないことは、安否確認そのものの前提です。災害用伝言板もweb171も電話番号をキーに検索する仕組みで、番号がなければ引けません。番号を知らない相手をどう探すかは名前で安否を探す方法にまとめています。
まとめ#
- 連絡先はApple Account/Googleアカウントの持ち物。格安SIMでも扱いは変わらない
- iPhoneは「設定」>[ユーザ名]>「iCloud」>「連絡先」をオン。各デバイスで同じApple Accountにサインインしていることが条件(iCloudの無料容量は5GB)
- AndroidはGoogleアカウントに自動バックアップされ、対象に連絡先が含まれる。無料15GB、画面ロックはPIN・パターン・パスワードが推奨
- 同期はバックアップではない。別途vCard(.vcf)を書き出して、同期先とは別の場所に置く
- 戻せる期間はGoogleが30日(削除・変更の取り消しとも)。iCloudは「データの復旧」>「連絡先を復元」で、アーカイブ表示に最大24時間かかることがある
- ドコモ「データ保管BOX」はドコモのケータイ回線契約が条件。au「データお預かり」はau回線なしでもPontaパス加入で利用でき、アドレス帳は最大3000件
- iPhoneはSIMカードに連絡先を保存しない(読み込みは可能)。SIMは逃がし先にならない
- すべて通信と電池が前提。最後の一手として紙を用意する
連絡先のバックアップは、地味なわりに効き方が広い備えです。伝言板も、171も、公衆電話も、位置情報の共有も、相手の番号がわからなければ何ひとつ始まりません。手段をいくつ増やしても、この一点が抜けていると全部が空振りします。設定を1か所オンにして、ファイルを1つ書き出す。今日のうちに終わる作業です。