災害の備えというと「回線」「電源」の話になりがちですが、水害や豪雨で現実に起きるのは端末そのものが濡れることです。そして濡れたあとの数分の判断で、直るはずの端末を壊すことがあります。
先に結論です。
- 濡れた直後の充電がいちばん危ない。 NITEは「濡れた直後に電源を入れると、ショートして異常発熱、発煙などが発生するおそれがあります」と注意喚起している
- Appleは、コネクタが濡れた状態で充電すると「ピンが腐食したり、損傷して使えなくなったり」する可能性があると案内している
- 乾かし方は自然乾燥。Appleは「iPhoneを米の袋に入れないでください」「高温の熱源やエアダスターでiPhoneを乾かさないでください」と明記している
- SIMトレイを開けるのは乾いてから。 Appleは「SIMトレイを開ける前に、iPhoneが乾いたことを確かめてください」と案内している
- 防水性能は「濡れても大丈夫」という保証ではない。Appleは「永続的に維持されるものではなく」「水濡れによる損傷は、保証の対象外となります」としている
「乾かす」より先に、やってはいけないことを知っておくほうが効きます。
なぜ「とりあえず充電」が最悪手なのか#
濡れたスマホを前にすると、電源が入るか確かめたくなります。ここが分かれ目です。
NITE(製品評価技術基盤機構)は、水没・水濡れした製品の対処について次のように案内しています。
水没させたり、水が掛かったりした場合は、使用時に異常が生じるおそれがあるため、取扱説明書を確認するかメーカーや販売店に連絡するなどし、再度使用して問題がないか確認してください。また、濡れた直後に電源を入れると、ショートして異常発熱、発煙などが発生するおそれがあります。
さらにNITEは、リチウムイオン電池について「内部に一旦水が侵入すると、放置しているだけでも内部の回路基板のショートやトラッキング現象が起こり、発熱、出火に至る可能性があります」とも説明しています。つまり、濡れた端末は、触らなくてもリスクが残るということです。
Appleの案内はコネクタ側の話です。
LightningコネクタまたはUSB-Cコネクタが濡れている状態でiPhoneを充電すると、iPhoneやアクセサリの接続不良といった問題につながる上、コネクタやケーブルのピンが腐食したり、損傷して使えなくなったり、機能不全に陥ったりする可能性があります。
iPhone XS・XS Max・XR以降には液体検出の警告があり、Appleは「iPhoneやアクセサリを守るため、コネクタ、ケーブルの端子、アクセサリが乾くまで、充電やアクセサリの接続はできません」としています。警告が出るのは故障ではなく、止めてくれていると考えてください。
濡れたときの手順(Apple・Googleの公式案内)#
メーカーによって書き方が違うので、両方を並べます。
iPhoneの場合#
Appleの案内をまとめると次の流れです。
- iPhoneからケーブルを外し、ケーブルの反対側も電源アダプタやアクセサリから外す
- 水以外の液体がかかった場合は、その部分を水道水ですすぐ
- 糸くずの出ない柔らかい布で拭く
- コネクタ部を下向きにして手のひらに載せ、優しくたたいて余分な水分を抜き取る
- 風通しのよい乾いた場所で自然乾燥させる(扇風機の涼風をコネクタに当てると乾きが早くなる場合がある、とAppleは案内している)
2番目が災害時に効きます。洪水の水は真水ではありません。Appleは「水以外の液体がiPhoneに飛び散った場合は、その部分を水道水ですすぎます」と案内しており、汚れた水がついたまま乾かすのは想定されていないということです。
Pixelの場合#
Googleの案内は、iPhoneと違って電源オフが手順に入っています。
- Pixelを水から引き上げます
- 電源をオフにします
- 柔らかい布で水分を取り除きます
- 平らな場所に置いて、室温で完全に乾かします
Appleの手順に電源オフの明示はありませんが、NITEの注意喚起(濡れた直後に電源を入れない)を踏まえると、すでに電源が入っているなら無理に操作を続けない、切れているなら入れ直さない、という考え方が安全側です。
どのくらい乾かすのか#
Appleは2つのページで別の目安を示しています。状況が違うので、混ぜないでください。
| 状況 | Appleの案内 |
|---|---|
| iPhoneが濡れた(充電してよいか) | 「Lightning/USB-Cケーブルでの充電やアクセサリの接続は、最低5時間は経ってから行ってください」 |
| 液体検出の警告が出た(消えたか試す) | 「30分以上経ってから、LightningケーブルまたはUSB-Cケーブルで充電するか、アクセサリを接続してみます」 |
| 警告が再び出た | 「風通しのよい乾いた場所に丸一日置いて自然乾燥」「完全に乾かすには、最長で24時間かかる場合があります」 |
最長24時間という数字は、災害時にはかなり重い制約です。丸一日、その端末は当てにできないと考えて動く必要があります。ここでサブ回線を別の端末に入れてあるかどうかで差が出ます(後述)。
やってはいけないこと#
Appleが「以下は禁止事項です」として挙げているのは次の3つです。
- 高温の熱源やエアダスターでiPhoneを乾かさないでください
- 綿棒やペーパータオルなどの異物をケースのコネクタに挿入しないでください
- iPhoneを米の袋に入れないでください。米の小さな粒子が原因でiPhoneが損傷するおそれがあります
3番目は、防災の話題でいまだに見かける「米に埋める」への明確な否定です。Appleは公式に「入れないでください」と書いています。ドライヤーで乾かすのも同様に禁止側です。
Googleも同じ立場です。Pixel 9の安全と規制に関するガイドには「スマートフォンが濡れた場合でも、外部熱源を使って乾かそうとしないでください」「スマートフォンが濡れている場合は充電しないでください」と書かれています。iPhoneでもPixelでも、熱で乾かすのと、濡れたまま充電するのはNGという点は共通しています。
災害時の例外:Appleは「警告を無視する選択肢」にも触れている#
ここは正確に書きます。Appleは、濡れた状態での充電を基本は避けるとしたうえで、次のようにも案内しています。
濡れている状態でiPhoneを充電しないのは基本ですが、緊急時には必要に迫られる場合もあるでしょう。緊急の際には、iPhoneをケーブルやアクセサリに接続し直し、液体検出の警告を無視してiPhoneを充電するという選択肢もあります。
つまり、「絶対に充電するな」ではなく「壊れるリスクを承知でなら手はある」という書き方です。安否が伝えられない、救助を呼べないといった場面では、端末の寿命よりも通信を優先する判断はありえます。ただし、これは端末を犠牲にする可能性のある操作です。
Appleはあわせて、ワイヤレス充電にも触れています。
ワイヤレス充電器をお持ちの場合は、そちらでiPhoneを充電することもできます。万全を期すため、iPhoneの背面が乾いていることを確認してから、Qi対応の充電器の上に置いてください。
コネクタが濡れていても、背面が乾いていればワイヤレス充電という逃げ道があるということです。モバイルバッテリーを選ぶときにワイヤレス充電対応を1つ持っておくと、この場面で効きます。容量の考え方は災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?にまとめています。
なお、濡れた端末に無理に通電する判断をするなら、発熱・膨らみ・異臭が出たらすぐやめるのが前提です。異常時の対処は災害の備えは本体バッテリーの点検からに書いた内容がそのまま当てはまります。
SIMを抜くのは「乾いてから」#
格安SIMユーザーがいちばんやりそうな行動が、ここで引っかかります。
端末が死んだ → SIMを抜いて予備端末に差す。発想としては正しいのですが、Appleははっきりこう案内しています。
SIMトレイを開ける前に、iPhoneが乾いたことを確かめてください。
濡れたままトレイを開けると、内部に水を引き込むことになります。SIMトレイは本体の開口部なので、外側の水が入る経路になり得ます。急いでいるときほどやりがちなので、先に知っておく価値があります。
そしてここが、SIMの持ち方で差が出るところです。
| 持ち方 | 水没した端末から移すとき |
|---|---|
| 物理SIM | 抜いて別端末に差せば使える。ただし本体が乾くまでトレイを開けられない |
| eSIM | トレイを開ける必要はないが、移すには再発行・転送の手続きとインターネット接続が要る |
どちらにも詰まりどころがあります。この差は災害用のサブ回線はeSIMと物理SIM、どちらで持つ?で詳しく整理しました。水没を想定するなら「メイン回線と別の端末に、あらかじめもう1回線入れておく」のがいちばん強いという結論になります。
サブ回線を別端末に入れておく方法は古いスマホを災害用の予備端末にするを、追加の手順はiPhoneでデュアルSIM(eSIM)を設定する手順とPixelでデュアルSIMを設定する手順をご覧ください。
防水対応でも「濡れても大丈夫」ではない#
いまのスマホはたいてい防水をうたっています。ただ、その中身を読むと、災害を想定した性能ではないことがわかります。
Appleは、iPhoneの防沫・耐水・防塵性能について次のように案内しています。
- 「実験室の管理された条件下でテストを実施済みです」
- 機種によって等級が異なる。たとえば新しめのモデルは「IEC規格60529に基づくIP68等級(深さ6 mまで、最長30分間)」、iPhone SE(第2世代・第3世代)は「IP67等級(深さ1mまで、最長30分間)」
- 「防沫性能、耐水性能、防塵性能は永続的に維持されるものではなく、通常の使用によって耐性が低下する可能性があります」
- 「水濡れによる損傷は、保証の対象外となります」
Googleも同様です。Pixelヘルプは「Google Pixel(Google Pixel Fold を含む)は防水設計ですが、通常使用での摩耗によって防水性能が低下することがあります」とし、「事故や外的要因(水漏れなど)で生じた損傷は、保証の対象外となります」と案内しています。Pixel 9の安全と規制に関するガイドはさらに踏み込んで、IP68を満たすように設計されているが「完全な防塵または防水ではありません。防塵および防水性能は永久的には持続せず」と明記しています。
災害時に問題になるのは、この試験条件と現実のズレです。Appleが避けるよう挙げている行為には、「iPhoneに水圧が強い水や流速が大きい水をかける」が含まれています。浸水した水の流れ、雨に打たれ続ける状況は、IP等級の試験とは別物だと考えたほうが安全です。加えて、泥水・海水は真水ではありません。
買ったときIP68だったから大丈夫、という前提は捨てておくのが実際的です。防水ケースや、ジップ袋に入れて持ち出すといった原始的な手のほうが、災害時は確実です。
モバイルバッテリーやポータブル電源が濡れたら#
スマホ以上に注意が要ります。NITEはリチウムイオン電池搭載製品について、次の2点を挙げています。
- リチウムイオン電池搭載製品を水に浸したり、過度の湿気にさらしたりしない
- リチウムイオン電池搭載製品は、水に濡れやすい場所から離れた、乾燥した安全な場所に保管する
NITEが紹介している事故事例には、雨に濡れた製品をそのまま保管していて後日出火したケースが含まれています。「濡れたけど動いたから大丈夫」ではなく、濡れた時点で使用をやめて確認するのが公式の案内です。
万一発火した場合、NITEは「モバイルバッテリーのようにポケットに入る小型サイズのものであれば、火花が収まったら、大量の水を掛けることで消火することができます。消火後は、可能な限り水没させた状態で、消防機関へ通報してください」としています。対処が難しいと判断したら119番です。
備蓄している電源をどこに置くかは、災害用ポータブル電源の選び方とあわせて見直しておいてください。浸水しうる場所(床置き・玄関・車内)に置いていないかが確認ポイントです。
端末が戻らなかったときにやること#
丸一日乾かしても復活しないことはあります。そのときの動きを先に決めておきます。
- 予備端末にサブ回線を立ち上げる — 古いスマホを災害用の予備端末にする
- メイン回線をどうするか判断する — 端末が手元にあるなら回線停止は不要ですが、流されて紛失した場合は別です。手順と受付時間は災害でスマホをなくしたら、まず回線を止めるに整理しました
- 家族に「別の番号から連絡する」と伝える手段を確保する — スマホがない状態でも使える手段として災害用伝言ダイヤル(171)の使い方と災害時の公衆電話の使い方があります
- 連絡先を思い出せるようにしておく — 端末が死ぬと電話帳も見られません。家族の安否確認ルールの決め方で書いたとおり、紙に残しておく意味はここにあります。クラウド側の同期と書き出しについては災害に備えて連絡先をバックアップするにまとめました
3番と4番は、端末を失った瞬間に効いてくる部分です。備えの中でいちばん安く、いちばん忘れられています。
今日やっておくチェックリスト#
- 「濡れたらまず充電して確認」をやらないと決めた
- 米袋・ドライヤー・エアダスターは使わないと覚えた
- SIMトレイは乾いてから開けると覚えた
- 自分の端末の防水等級を確認した(そして永続しないと理解した)
- サブ回線をメイン端末とは別の端末に入れてある、または入れる予定を立てた
- モバイルバッテリー・ポータブル電源を浸水しない場所に置き直した
- 家族の連絡先を紙にも控えた
- ワイヤレス充電できる手段が1つあるか確認した
上から3つは、知っているかどうかだけの話です。費用はかかりません。
まとめ#
- 濡れた直後の充電・電源投入が最大のリスク。NITEはショートによる異常発熱・発煙のおそれを挙げている
- 乾かし方は自然乾燥。Appleは米袋・高温の熱源・エアダスター・綿棒を明確に禁止している
- 乾燥の目安はAppleの案内で最低5時間、警告が消えなければ丸一日・最長24時間
- SIMトレイは乾いてから開ける(Appleが明記)。急いで抜くと水を引き込む
- 緊急時に限り、Appleは液体検出の警告を無視して充電する選択肢にも触れている。ただし端末を犠牲にしうる
- 防水性能は実験室条件のテストであり、永続せず、水濡れ損傷は保証対象外
- モバイルバッテリー類は濡れた時点で使用をやめる。濡れたまま保管して後日出火した事例がある
災害時の通信の備えは、回線と電源で語られがちです。でも実際にいちばん先に失われるのは、手に持っている1台かもしれません。その1台が死んでも通信が続く形にしてあるかどうかを、今日のうちに確認しておいてください。