災害でけがをした、家具の下から動けない、家族が倒れた——そういう場面で使うのが緊急SOSです。ボタン操作だけで通報できる機能として知られていますが、実際にはもう少し多くのことが同時に起きます。

そして、その多くは事前に設定しておかないと起きません。緊急連絡先を1件も登録していない端末では、通報しても家族には何も届きません。

先に結論をまとめます。

  • 緊急SOSは通報だけでなく、緊急連絡先へのテキスト通知と現在地の送信まで行う(iPhone・Androidとも)
  • ただし緊急連絡先を事前に登録していないと、この通知は発生しない
  • 110・118・119では、利用者が特別な操作をしなくても位置情報が通報先に送られる(総務省が事業者に義務付け)
  • 精度はGPSなら数十メートル以下、基地局からの推定だと数百メートル〜10キロメートル程度。口頭でも場所を伝える
  • 184を頭に付けて発信すると位置情報は通知されない
  • メディカルIDの緊急通報サービスへの自動共有は米国およびカナダのみ。日本ではロック画面表示が主な役割
  • Androidの緊急SOSは機内モード・バッテリーセーバーがオンだと機能しない(Google公式に明記)
  • SIM/eSIMが入っていない端末は、緊急連絡先に電話をかけられない(Google公式に明記)

この記事が合わない人へ(先に確認)#

緊急SOSで実際に起きること#

Appleは、iPhoneの緊急SOSについてこう説明しています。

緊急時には、iPhoneを使って素早く簡単に助けを求めて、メディカルIDを共有し、緊急連絡先に通知できます(携帯電話サービスが使用可能な場合)。 — Appleサポート「緊急通報サービスに連絡する」

ポイントは「通報」と「家族への連絡」が1回の操作でまとまっていることです。緊急通報のあとに何が起きるかも明記されています。

緊急電話が切れたあと、ユーザがキャンセルしない限り、テキストメッセージで緊急連絡先に通知されます。iPhoneから現在地(利用可能な場合)が送信され、SOSモードになってからしばらくの間は、現在地が変わったときに緊急連絡先にアップデートが届きます。

Androidも構成は同じです。Googleは緊急SOSを「通報して救援を求める、位置情報を緊急連絡先と共有する、動画を撮影するなど」の緊急時アクションをまとめて実行する機能として説明しています。

つまり緊急SOSは、自分で電話をかけて、そのあと家族にも状況を知らせるという2段階を、動けない状態でも自動でやってくれる仕組みです。逆に言えば、家族側の連絡先を登録していなければ、動くのは通報部分だけになります。

家族との連絡ルールそのものの決め方は家族の安否確認ルールの決め方にまとめました。この記事は、そのルールを端末側の設定に落とし込む話です。

iPhoneの設定手順#

1. 起動方法を確認する#

インドを除く国や地域では、次の操作です。

サイドボタンといずれかの音量ボタンを同時に長押しし、スライダが表示されて「緊急SOS」のカウントダウンが終了したら、ボタンを放します。

サイドボタンの5回押しでも起動できますが、こちらは設定で切り替える項目です。「設定」→「緊急SOS」で次の2つを確認してください。

設定項目動作
長押ししてから放して通報サイドボタンと音量ボタンを長押ししてから放すと、通報までのカウントダウンが始まる
ボタンを5回押して通報サイドボタンを素早く5回押すと、通報までのカウントダウンが始まる

どちらか一方でも有効なら通報はできます。ポケットの中で押しやすいか押しづらいかは端末や服装で変わるので、実際に自分の指で届くかを確かめておくとよいです(カウントダウン中にキャンセルできます)。

2. 緊急連絡先を登録する#

緊急連絡先は「設定」→「緊急SOS」の「緊急連絡先を設定」または「緊急連絡先を編集」から、ヘルスケアアプリのメディカルID内に登録します。ここが空欄だと、前述の自動通知は誰にも届きません。

登録先には、家族の安否確認ルールで決めた遠隔地の中継役を1件入れておくと、同じ被災地にいる家族全員が通信できない状況でも情報が残ります。

3. メディカルIDを作る(ただし日本では自動送信されない)#

メディカルIDには、アレルギー・病状・緊急連絡先などを登録できます。設定はヘルスケアアプリ→右上の写真→「メディカルID」→「はじめよう」または「編集」です。

ここで日本のユーザーが誤解しやすい点があります。Appleは自動共有の対象地域をこう限定しています。

メディカルIDの情報を緊急電話中に自動的に共有できます(米国およびカナダ内のみ)。この情報は、iPhoneとApple Watchのロック画面にも表示されます。

つまり日本では、救急隊の側に医療情報が自動で飛ぶわけではありません。日本でのメディカルIDの役割は、駆けつけた人がロック画面から見られるようにしておくことです。そのためには編集画面の一番下で「ロック中に表示」をオンにしておく必要があります。

ロック画面からの表示手順は、上にスワイプするかホームボタンを押し、パスコード入力画面の「緊急」→「メディカルID」です。逆に言えば、端末を拾った人は誰でもこの情報を見られます。書く内容は、救護に必要な範囲(アレルギー・持病・服薬・連絡先)にとどめるのが無難です。

Android(Pixel)の設定手順#

Androidでは「緊急情報サービス」アプリ(アプリ一覧では「緊急情報」)が窓口になります。Googleは「緊急 SOS は Android 12 以降でご利用いただけます」としており、Pixelについては「Google Pixel 4a 以降(Google Pixel Fold を含む)でご利用いただけます」と案内しています。

1. 緊急時情報と緊急連絡先を入れる#

  1. 緊急情報アプリを開き、Googleアカウントにログインする
  2. 「あなたの情報」→「医療に関する情報」で血液型・アレルギー・薬などを登録する
  3. 「緊急連絡先」→「連絡先を追加」で連絡先を登録する
  4. 「緊急時情報へのアクセス設定」→「ロック時に表示」をオンにする

Googleもロック画面表示の副作用を明記しています。

あなたのスマートフォンを手にした人なら誰でも、スマートフォンがロックされていてもロック画面に表示されるメッセージと緊急時情報を見ることができます。

2. 緊急SOSをセットアップする#

「設定」→「緊急情報と緊急通報」→「緊急SOS」→「設定を開始」と進み、緊急通報番号の設定、緊急連絡先との位置情報共有、緊急時の録画の権限などを順に設定します。

起動したあとの挙動は2種類から選べます。

選択肢動作
長押しでアクションを開始する緊急時のアクションの開始前に確認ステップが入る
自動的にアクションを開始する5秒間のカウントダウン後に自動で開始する

起動操作は「スマートフォンの電源ボタンを5回以上押します」です。ポケットの中で誤って起動しやすい操作でもあるので、確認ステップを挟む設定にしておくか、アラーム音を鳴らす設定を有効にしておくと気づけます。

3. 「緊急事態の共有」の条件を知っておく#

緊急連絡先が位置情報とバッテリー残量の最新情報を受け取れる「緊急事態の共有」には、Googleが挙げる条件があります。

  • 緊急連絡先が1件以上登録されていること
  • 緊急情報サービスアプリに位置情報の利用許可として「アプリの使用時のみ」を付与していること
  • インターネット接続と位置情報サービスがオンになっていること
  • 緊急通報のステータスの共有をオンにすること

注意したいのはインターネット接続が要ることです。圏外や通信規制で通信が通らない状況では、この共有は届きません。共有は24時間後に自動的に終了する、とも案内されています。

なお、災害直後は音声通話が特につながりにくくなります。その仕組みは災害時に電話だけつながらないのはなぜ?にまとめています。

110番・119番したとき、居場所はどう伝わるのか#

ここは端末の機能ではなく、日本の制度の話です。総務省は、電気通信事業者に対して緊急通報(110、118、119)を扱う際の機能を義務付けています。

電気通信事業者は、緊急通報(110,118,119)を扱う際には次の機能を持つことを義務付けられています。 ・管轄の緊急通報受理機関(警察、海上保安庁、消防)へ接続する機能 ・発信者の位置情報等を通知する機能 ・回線を保留または呼び返し等を行う機能

携帯電話の場合の中身も明記されています。

携帯電話の場合、位置情報として、GPS位置情報通知対応端末でGPSを利用可能な場合はGPS測位による位置情報が、それ以外の場合は基地局の場所等から算出される位置情報が、電話番号とともに受付台等に送信されます。

そして、この通知に利用者側の操作や契約は不要です。総務省のFAQには「利用者が緊急通報時に特別な操作を行ったり、電気通信事業者と特別な契約を結んだりする必要はありません」とあります。大手キャリアか格安SIMかも関係しません。

精度は「数十メートル」から「10キロメートル」まで幅がある#

総務省は精度の目安をこう示しています。

携帯電話の場合は、GPS測位方式の場合、電波状況が良ければ数十メートル以下の精度で、基地局による位置情報の場合、基地局の配置状況にもよりますが数百メートルから10キロメートル程度の精度で、位置情報が通知されます。

基地局が疎な山間部では、通知される位置が数キロ単位でずれることがあるということです。だから総務省は次のように呼びかけています。

GPSの受信状況や携帯電話の電波状況によっては、正確な位置を通知できない可能性もありますので、緊急通報の際には、口頭でも現在地や目標物等を伝えるようにしてください。

また「海上保安庁は全国で対応していますが、一部地域の警察及び消防機関では位置情報を受け取ることができません」とも記載されています。位置情報は補助であり、自分で伝えなくていい理由にはならないと考えておくのが安全です。

圏外になりやすい場所での備えは山・地方で圏外になりやすいのはなぜ?にまとめています。

184を付けると位置情報は通知されない#

総務省のFAQには明確に書かれています。

184を頭に付けて発信すれば、緊急通報時であっても、電話番号や位置情報等は通知されません。(中略)ただし、緊急通報受理機関が人の生命等に差し迫った危険があると判断した場合には、発信者の位置情報を取得する場合があります。

非通知発信を癖にしていると、緊急時に居場所が伝わらないことになります。緊急通報のときは184を付けない、と覚えておいてください。

Androidの「緊急位置情報サービス(ELS)」との関係#

Androidには、これとは別に端末側から位置情報を送るELSという仕組みがあります。Googleの説明では、緊急通報番号への発信やテキスト送信の際に「Android 緊急位置情報サービス(ELS)がお住まいの国 / 地域やご利用のモバイル ネットワークで提供されている場合は、スマートフォンで ELS をオフにしていなければ、ELS を介してファースト レスポンダーに位置情報が自動的に送信されます」とされています。

さらに「ELS がオフになっていても、緊急通報や緊急メッセージの送信中にご利用の携帯通信会社からデバイスの位置情報が送信されることがあります」とも書かれています。日本では前述のとおり事業者側の位置情報通知が制度として義務化されているので、ELSは重ねての手段と考えておけば十分です。

設定を確認したい場合は「設定」→「位置情報」→「位置情報サービス」→「緊急位置情報サービス」(または「Google 緊急位置情報サービス」)です。

設定していても動かない4つの条件#

① バッテリーセーバー・機内モード(Android)#

Googleは注意事項として明記しています。

機内モードやバッテリー セーバーがオンになっている場合、緊急 SOS は機能しません。

電池を節約しようと常時オンにしていると、いざというときに動きません。省電力モードの副作用は災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定で詳しく扱っています。

② SIMが入っていない端末#

Googleは緊急連絡先について、こう書いています。

スマートフォンに SIM カードまたは eSIM がない場合、緊急通報を発信できる場合もありますが、緊急連絡先に電話をかけることはできません。

「通報はできる場合があるが、家族には電話できない」という区別です。自動車事故検出についても「機能させるには、スマートフォンに SIM が必要です」とされています。

Appleも同様の注意を書いています。

iPhoneがアクティベートされていない場合、iPhoneが特定のモバイルネットワークで使用できないか動作するように構成されていない場合、またはiPhoneにSIMカードがないか、SIMカードがPINロックされている場合(該当する場合)は、モバイルネットワークによってはiPhoneからの緊急電話を受け付けないことがあります。

SIMを抜いた古いスマホを予備端末にしている場合、この点は把握しておいてください。予備端末の使い方は古いスマホを災害用の予備端末にするに、格安SIMの契約種別ごとの緊急通報の可否は格安SIMで110番・119番はかけられる?にまとめています。

③ デュアルSIMのiPhoneで、折り返しが取れないことがある#

災害用にサブ回線を持っている人はここに注意してください。Appleは次のように記載しています。

デュアルSIMを搭載するiPhoneでは、回線でWi-Fi通話をオンにしないと、その回線への着信(緊急通報サービスからの着信も含む)は、別の回線が使用中の場合、すべて直接留守番電話(通信事業者で使用可能な場合)に転送されます。不在着信通知は表示されません。

総務省が挙げている「呼び返し」——通話が切れたときに受理機関からかけ直す機能——が、別の回線を使用中だと留守番電話に流れるということです。しかも不在着信の表示すら出ません。デュアルSIMの設定手順はiPhoneでデュアルSIM(eSIM)を設定する手順にまとめています。

④ 通信そのものが届かない#

緊急連絡先への通知はテキストメッセージ、Androidの緊急事態の共有はインターネット接続が前提です。圏外なら届きません。相手の端末が通信できなくなると更新が止まる点は、平時の位置情報共有と同じ構造です(災害前に家族と位置情報を共有しておく)。

通信が止まったときの別系統の備えとしては、声で残せる災害用伝言ダイヤル(171)や公衆電話があります。

誤って発信してしまったときは切らない#

Appleは重要事項としてこう書いています。

緊急電話をかけたが緊急通報サービスは必要ない場合でも、電話を切らないでください。相手が応答するまで待ってから、助けは必要ないことを説明してください。

黙って切ると、受理機関の側は通報者が話せない状況にある可能性を考えることになります。切らずに事情を伝えるほうが、結果的に消防・警察の手間を取りません。

今日やっておくチェックリスト#

  • 緊急SOSの起動操作(iPhone=サイドボタン+音量ボタン/Android=電源ボタン5回以上)を実際に指で試す(カウントダウン中にキャンセル)
  • 緊急連絡先を最低1件登録する。うち1件は遠隔地の相手にする
  • メディカルID/緊急時情報に、アレルギー・持病・服薬を入れて「ロック中に表示」をオンにする
  • 書いた内容が拾った人に見られても困らない範囲か見直す
  • Androidはバッテリーセーバーを常時オンにしていないか確認する
  • デュアルSIM運用なら、折り返しを取り逃がす条件を把握しておく
  • 家族にも同じ設定をしてもらう(設定は端末ごとの話で、契約先は関係ない)

費用はかかりません。かかるのは10分ほどの操作だけです。

まとめ#

  • 緊急SOSは通報+緊急連絡先への自動通知+現在地送信をまとめて行う機能
  • ただし緊急連絡先が未登録なら通知は起きない。ここが最も抜けやすい
  • 110・118・119の位置情報通知は制度として義務化されており、特別な操作も契約も不要。格安SIMでも同じ
  • 精度はGPSで数十メートル以下、基地局だと数百メートル〜10キロメートル程度。口頭でも現在地を伝える
  • 184を付けると位置情報は通知されない
  • メディカルIDの自動共有は米国およびカナダのみ。日本での役割はロック画面表示
  • バッテリーセーバー・機内モード(Android)、SIMなし端末、デュアルSIMの着信条件で動作が変わる

備えの多くはお金と物ですが、この設定は今すぐ・無料で・端末の中だけで終わります。連絡手段の全体像は災害時の連絡手段まとめを参照してください。