災害用にサブ回線を用意している人ほど、見落としやすい点があります。そのサブ回線から110番・119番はかけられるのか、という点です。
結論から書きます。
- 音声通話SIMなら緊急通報は発信できる(大手・格安SIMを問わず)
- データ通信専用SIM・SMS機能付きSIMでは緊急通報は発信できない(各社が公式に明記)
- かけ放題アプリやIP電話アプリ経由では発信できないことがある。緊急時は標準の電話アプリから
安く維持するために「サブ回線はデータ専用でいい」と考えた場合、その回線からは110番・119番がかけられない、という話になります。ここを公式情報で確認していきます。
そもそも緊急通報には要件がある
緊急通報(110番・118番・119番)は、単に電話がつながればよいというものではありません。総務省は、緊急通報を扱う電気通信事業者に対し、次の機能を求めています。
- 位置情報の通知:「警察・消防等の関係機関に通報者の位置情報を通知する機能」
- 呼び返し:緊急通報受理機関側から発信者に折り返せること
- 回線保留:通話中に切断されないようにすること
携帯電話については、GPSが利用できる場合はGPS測位、利用できない場合は基地局の位置情報が使われるとされています。これらの義務は2007年4月1日に全面施行されました。
ポイントは呼び返しができることが前提になっている点です。電話番号を持たない、あるいは着信できない回線では、この要件を満たせません。データ専用SIMで緊急通報ができないのは、ここに理由があります。
データ専用SIM・SMS機能付きSIMでは緊急通報できない
MVNO各社は公式に明記しています。
IIJmioのQ&Aでは、音声通話SIMについて「音声通話SIMでは、110番や119番など各種の緊急通報が行えます。」としたうえで、「データSIM・SMS SIMでは緊急通報を行うことはできません。」と記載しています。
イオンモバイルも同様に、「音声通話ができるSIMカードは緊急通報を発信できます。データ通信専用のSIMカード(SMS機能付きを含む)では、緊急通報は利用できませんのでご注意ください。」と案内しています。
つまりSMS機能付きでも不可です。「SMSが使えるなら電話番号があるのでは」と考えがちですが、緊急通報の可否はSMS用番号の有無ではなく、音声通話の契約があるかどうかで決まります。
サブ回線をデータ専用にしている人は要確認
災害用のサブ回線は、維持費を抑えるためにデータ専用で契約されることがあります。安否確認やネット接続だけが目的ならそれで十分ですが、メイン回線が使えない状況でサブ回線から救急車を呼ぶ、という使い方は想定できないことになります。
サブ回線に何を担わせるかによって、選ぶプランが変わります。povo2.0のように音声通話に対応した回線を低コストで維持する方法はpovo2.0を災害用のサブ回線ににまとめました。契約中のプランが音声通話付きかデータ専用かは、契約先のマイページで確認できます。
かけ放題アプリ・通話料割引アプリ経由ではかけられない
もう一つの落とし穴が、発信に使うアプリです。
格安SIMの通話料割引には、電話番号の前に事業者独自の番号(プレフィックス番号)を自動で付けて発信する方式があります。この方式では緊急通報にかけられません。IIJmioの「みおふぉんダイアル」の案内では、「フリーダイヤル、ナビダイヤル、110番などの3桁番号への発信はできません。」と明記されており、これらにかけるには「プレフィックス番号(0037-691)をつけず発信していただくことで、これらの番号への発信が可能です。」とされています。
なお同社は2023年4月1日以降、「スマートフォンの標準電話アプリを利用した通常の発信でみおふぉんダイアル利用時と同様のサービスをご利用いただけます。」と案内しており、専用アプリは不要になっています。
楽天モバイルのRakuten Linkも、110番・119番・118番などの3桁特番については「電話番号によっては標準の電話アプリに切り替えて発信します」とされ、標準の電話アプリ側で発信される仕様です。
インターネット回線を使う通話アプリの中には、緊急通報に対応していないサービスがあります。契約中のサービスの重要事項説明で、緊急通報の可否を確認しておくのが確実です。
覚えておくこと
緊急時は、標準の電話アプリから直接ダイヤルする。
普段かけ放題アプリを使っている人ほど、無意識にそのアプリを開いてしまいます。ホーム画面の押しやすい位置に標準の電話アプリを置いておく、という単純な準備が効きます。
端末側の条件でかけられなくなることもある
回線が音声通話対応でも、端末側の状態で緊急通報ができなくなることがあります。
SIMロックが解除されていない端末 NTTドコモは、他社で購入した端末にドコモのSIMカードを入れて使う場合について、SIMロックが解除されていない端末ではドコモの通信サービスを利用できず、「緊急通報もご利用できません」と案内しています。あわせて、他社端末との組み合わせについて「原則、動作確認などを実施しておらず、一切の動作保証を行いません」ともしています。
端末の不具合 IIJmioは過去に、特定のスマートフォン(特定条件でデュアルSIMを利用した場合)で緊急通報(110/118/119)の発信ができない場合があることを告知しました。同社は「最新のソフトウェアアップデートに更新していただくことで解決します」としており、現在は該当機種として掲載されている端末はありません。
つまりOSやソフトウェアを更新しておくこと自体が、緊急通報の備えになります。デュアルSIMで運用している人は特に、更新を後回しにしないほうがよいと思います。設定手順はiPhoneでデュアルSIM(eSIM)を設定する手順とPixelでデュアルSIMを設定する手順にまとめています。
また、端末が回線の周波数帯に対応していなければ、そもそも電波をつかめません。この点は山・地方で圏外になりやすいのはなぜ?で解説しています。
位置情報は自動で通知されるが、口頭でも伝える
緊急通報時には、発信者の位置情報が緊急通報受理機関に通知されます。povo2.0の重要事項説明では、緊急通報の際に「発信されたお客さまの所在地に関する位置情報を緊急通報受理機関へ通知します」とされています。
ただし、同じ説明の中で次の注意も示されています。
- 184を付けて発信した場合は位置情報を通知しない(ただし「緊急通報受理機関が人の生命、身体等に差し迫った危険があると判断した場合に、お客さまの位置情報を取得する場合があります」)
- 「実際の位置と異なる情報が、緊急通報受理機関へ通知される場合があります」
- 位置情報を取得できるのは一部の緊急通報受理機関に限られる
したがって、位置情報が自動で伝わることを前提にせず、口頭で所在地を伝えるのが基本です。屋外で目印がわからないときは、電柱や自動販売機の住所表示、信号機の交差点名などが手がかりになります。
話せない・電話がつながらないときの手段
スマホの緊急SOS
iPhoneでは、「サイドボタンといずれかの音量ボタンを同時に長押しし、スライダが表示されて『緊急SOS』のカウントダウンが終了したら、ボタンを放します」という操作で緊急通報サービスに接続されます。通話終了後は、キャンセルしない限り緊急連絡先にテキストメッセージで通知され、現在地(利用可能な場合)も送信されます。
なお、メディカルIDを緊急通報サービスへ自動送信する機能について、Appleは米国のみと案内しています。日本では、医療情報はロック画面から救助者が閲覧できる形が中心になります。
Androidでは、ロック画面を上にスワイプして「緊急」をタップすると緊急通報の画面にアクセスできます。緊急SOS(電源ボタンを5回以上押す)はAndroid 12以降で利用でき、Googleは「機内モードやバッテリー セーバーがオンになっている場合、緊急 SOS は機能しません。」と明記しています。
これは重要な注意点です。災害時に電池を節約しようとバッテリーセーバーをオンにすると、緊急SOSが使えなくなります。省電力設定の副作用は災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定で詳しく整理しています。
公衆電話
公衆電話は、110番・119番への発信が無料で、災害時の通信規制の対象外とされています。停電時にも使える機種(受話器を上げて緊急通報ボタンを押すタイプ)があり、NTT東日本・西日本は設置場所を検索できるページを公開しています。避難所などに事前配備された「災害時用公衆電話(特設公衆電話)」の設置場所も公開されています。
スマホが使えない状況での最終手段として、自宅・職場・子どもの学校の近くにある公衆電話の場所を一度確認しておく価値はあります。停電時に何ができるか、機種ごとの操作の違い、災害時の無料化については災害時の公衆電話の使い方で詳しく整理しました。
なお、規制がかかる状況では110番・119番などの重要通信もつながりにくくなる場合があるとソフトバンクが公式に説明しています。その仕組みと、災害直後に通りやすい連絡手段は災害時に電話だけつながらないのはなぜ?にまとめています。
音声による通報が難しい場合(NET119)
総務省消防庁のNET119緊急通報システムは、「音声による119番通報が困難な聴覚・言語機能障害者」を対象に、スマートフォンなどから「救急」「火事」の別と位置情報を入力して通報し、その後テキストチャットで詳細を確認する仕組みです。利用には事前登録が必要で、申請方法は住んでいる地域を管轄する消防本部へ問い合わせる形になっています。
対象者が限られる制度ですが、該当する家族がいる場合は、災害が起きる前に登録を済ませておく類のものです。
今日確認しておくこと
- メイン回線が音声通話SIMか確認した
- サブ回線がデータ専用/SMS付きなら、そこからは110番・119番がかけられないと理解した
- 緊急時は標準の電話アプリから発信すると決めた(かけ放題アプリではなく)
- 端末のOS・ソフトウェアを最新に更新した
- iPhone/Androidの緊急SOSの操作方法を確認した
- Androidはバッテリーセーバー中は緊急SOSが機能しないと理解した
- 自宅・職場周辺の公衆電話の場所を確認した
安否確認の手段は緊急通報とは別に用意が必要です。携帯4社の災害用伝言板の使い方と災害時の連絡手段まとめにまとめています。つながらない原因の切り分けは通信障害かも?と思ったらまず確認することを参照してください。
まとめ
格安SIMでも、音声通話SIMであれば110番・119番は問題なく発信できます。プランが安いから緊急通報ができない、ということはありません。
注意すべきは次の3点です。
- データ専用SIM・SMS機能付きSIMからは発信できない(各社が公式に明記)
- プレフィックス方式のかけ放題アプリ経由では発信できない → 標準の電話アプリを使う
- 端末側の条件(SIMロック、ソフトウェアの不具合)でも発信できなくなることがある
サブ回線をデータ専用で維持している場合は、「その回線は通信の備えであって、通報の備えではない」と切り分けておくのが安全です。緊急通報まで担わせたいなら、音声通話付きの回線を選ぶ必要があります。
なお、そもそも圏外で電話がかけられない場所では、iPhone 14以降であればApple提供の「衛星経由の緊急SOS」でテキストによる通報を試せます(日本では110・118・119が対象)。電話の代わりではなく、電話がつながらないときの最後の手段です。詳しくはiPhoneの衛星機能は格安SIMでも使える?で解説しています。
この記事の情報について:本記事は、総務省「緊急通報の機能」、IIJmio Q&A「音声通話SIMでは緊急通報は可能ですか。【ギガプラン・mioモバイル】」、IIJmio「みおふぉんダイアル」、IIJmioお知らせ「【一部更新・解消】【重要】eSIM利用時に緊急機関(110/118/119)への発信ができない場合がある」、イオンモバイル よくあるご質問「イオンモバイルのSIMカードでも、『緊急通報(110や119など)』を発信できますか?」、NTTドコモ「ご用意いただいた携帯電話機をドコモのSIMカードでご利用される際のご注意事項」、楽天モバイル「Rakuten Linkで発信しようとした際、標準の電話アプリが起動して発信されるのはなぜですか?」、povo2.0「povo2.0ご利用/ご契約にあたっての確認事項(重要事項説明)」、Appleサポート「パーソナルセーフティユーザガイド(iPhoneやApple Watchで緊急通報する)」、Android ヘルプ「Android スマートフォンを使用して緊急時に助けを求める」、NTT東日本「公衆電話インフォメーション」「事前配備の災害時用公衆電話(特設公衆電話)の設置場所」、総務省消防庁「NET119緊急通報システム」の各情報をもとに、2026年7月29日時点で確認した内容です。緊急通報の可否は契約プラン・端末・OSのバージョンによって異なり、また各社の提供条件は変更される場合があります。ご自身の契約内容については、契約先の公式サイトおよび重要事項説明で必ずご確認ください。