「電波が弱くても、Wi-Fiにつながっていれば電話番号のまま通話できる」——スマホには確かにそういう機能があります。iPhoneでは「Wi-Fi通話」、Androidでは「Wi-Fi 通話」と表示される、いわゆるVoWiFi(Voice over Wi-Fi)です。

災害の備えとして考えると、これはかなり魅力的に見えます。追加費用なし、設定は1か所、しかも電話番号がそのまま使える。うまくいけば、自宅や避難所のWi-Fiが命綱になります。

ただ、日本で使えるのかを公式情報で確かめると、話はそう単純ではありませんでした。先に結論です。

  • Appleが公開している通信事業者の対応一覧(2026年9月18日公開)で、日本の項目に並ぶau・NTT docomo・Rakuten Mobile・SoftBankの4社には「Wi-Fi通話」の記載がありません
  • 同じ一覧で、オーストラリア・香港・マレーシア・ニュージーランドなどの事業者には「Wi-Fi通話」が記載されています。機能が存在しないのではなく、地域差です
  • この一覧に日本のMVNO(格安SIM)は掲載されていません。各社の公式サイトでも対応をうたうページは見つけられませんでした
  • 「一覧に記載がない」=「非対応と公式に断定されている」ではありません。最終的には自分の端末の設定画面に項目が出るかで判断するのが確実です
  • いずれにせよ、110番・119番はWi-Fi通話では代替できません

つまり、「Wi-Fi通話があるから災害時も電話は大丈夫」という前提は、日本ではいったん外して備えたほうが安全ということになります。順に見ていきます。

この記事は、圏外でもWi-Fiがあれば連絡できる?で「契約先の対応が前提」とだけ書いて保留にしていた部分を、公式情報で埋めたものです。

Wi-Fi通話(VoWiFi)とは何か#

まず用語を整理します。Wi-Fi通話は、モバイル回線の代わりにWi-Fiを経由して、電話番号のまま音声通話をする仕組みです。LINE通話のようなアプリ通話とは違い、相手から見れば普通の着信で、相手側に特別な準備は要りません。

Appleはこの機能を、携帯電話の信号が弱いエリアや圏外でもWi-Fi接続を利用できれば音声通話をかけたり受けたりできる機能として案内しています(Wi-Fi通話で電話をかける)。

重要なのは、端末だけで完結する機能ではないという点です。契約先の携帯電話会社が対応していなければ使えません。Googleの電話アプリヘルプも、この点をはっきり書いています。

「一部の携帯通信会社は Wi-Fi 経由の通話をサポートしていません」 「ご利用の携帯通信会社がこの機能に対応していない場合、このオプションは表示されません」 (Wi-Fi 経由で通話する - 電話アプリ ヘルプ)

では、日本の携帯電話会社はどうなのか。ここが今まで調べにくかった部分です。

Apple公式の対応一覧で、日本の4社に「Wi-Fi通話」の記載はない#

Appleは、地域ごとにどの通信事業者がどの機能に対応しているかを一覧で公開しています。アジア太平洋版がiPhoneの通信事業者のサポートと各機能(アジア太平洋)です。事業者ごとに、対応する機能が箇条書きで並ぶ形式になっています。

2026年9月26日時点で公開されている版(公開日:2026年9月18日)の「日本」の項目を確認すると、掲載されているのは次の4社で、記載されている機能は以下のとおりでした。

事業者一覧に記載されている機能「Wi-Fi通話」の記載
au5G / RCSメッセージのエンドツーエンドでの暗号化(ベータ版) / eSIM / モバイルデータ通信経由でのFaceTime / LTE / インターネット共有 / 通信事業者が提供する衛星通信機能 / ロック解除 / Visual Voicemail / VoLTEなし
NTT docomo5G / eSIM / モバイルデータ通信経由でのFaceTime / LTE / インターネット共有 / ロック解除 / VoLTE / Visual Voicemailなし
Rakuten Mobile5G / eSIM / モバイルデータ通信経由でのFaceTime / LTE / インターネット共有 / VoLTEなし
SoftBank5G / RCSメッセージのエンドツーエンドでの暗号化(ベータ版) / eSIM / モバイルデータ通信経由でのFaceTime / LTE / インターネット共有 / ロック解除 / Visual Voicemail / VoLTEなし

4社とも、VoLTE・eSIM・インターネット共有などは並んでいるのに、「Wi-Fi通話」だけが並んでいません。

同じ一覧で、他の国・地域には「Wi-Fi通話」が並んでいる#

「Appleの一覧にそもそもWi-Fi通話という項目がないのでは」と思うかもしれませんが、そうではありません。同じアジア太平洋版の中で、次のような事業者には「Wi-Fi通話」が記載されています。

  • オーストラリア:Optus、Telstra、Vodafone、amaysim
  • 香港:1O1OおよびCSL、3、SmarTone、HKBN ほか
  • マレーシア:CelcomDigi、Maxis、U Mobile、Yes
  • ニュージーランド:2degrees、One NZ、Spark
  • ベトナム:Mobifone

つまり、機能そのものは存在していて、日本の4社の欄にだけ載っていないという状態です。これは偶然の記載漏れというより、日本では一般向けに提供されていないことを示していると読むのが自然です。

実際、ドコモ・au・ソフトバンク・楽天モバイルの各公式サイトを「Wi-Fi通話」「Wi-Fiコーリング」「VoWiFi」で検索しても、サービスとして案内しているページは見つけられませんでした。海外では各社が専用のサービスページを用意していることを考えると、この差は小さくありません。

なお、上の表でauにだけ「通信事業者が提供する衛星通信機能」が並んでいる点は、Wi-Fi通話とは別の話ですが災害の備えとしては重要です。こちらはauのStarlink Directで何ができる?にまとめています。

「記載がない」と「非対応」は同じではない#

ここは慎重に書きます。Appleの一覧に記載がないことと、各社が「非対応です」と公式に明記していることは別物です。

  • この一覧はiPhone向けのものです。Android端末での扱いは、この一覧からは分かりません
  • 一覧に載っているのはMNO4社だけで、日本のMVNO(格安SIM)は1社も掲載されていません。掲載がないこと自体は、対応・非対応のどちらの証拠にもなりません
  • 法人向けの提供や、特定の端末・プランに限った提供がある可能性は、この一覧だけでは否定できません

なので、この記事では「日本ではWi-Fi通話は使えない」とは断定しません。「公式に対応をうたう情報を確認できなかった」というのが、事実に忠実な書き方です。

そのうえで、備えとしては使えない前提で組んだほうが安全です。使えるかどうかは、次の方法で自分の端末を見れば分かります。

自分の端末で使えるかを確かめる手順#

問い合わせなくても、設定画面に項目が出るかどうかで判断できます。Googleが明記しているとおり、対応していなければオプション自体が表示されません。災害が起きてから確認する余裕はないので、いま一度開いてみてください。

iPhoneの場合

  1. 「設定」→「モバイル通信」
  2. デュアルSIMなら、確認したい回線を選ぶ
  3. 「Wi-Fi通話」という項目があるか見る

項目があってオンにできる場合、Appleは「緊急通報サービスを利用するときのために、住所の入力または確認が必要となる場合があります」と案内しています。有効になっていれば、ステータスバーの通信事業者名のあとに「Wi-Fi」と表示されます。

Android(Pixelの場合)

  1. 「設定」→「ネットワークとインターネット」→「SIM」
  2. 使っている回線を選ぶ
  3. 「Wi-Fi 通話」という項目があるか見る

項目が見当たらないときは、端末の故障ではなく契約先が対応していない可能性が高い、と考えて次の手段に進んでください。

デュアルSIMで2回線持っている場合は、回線ごとに設定が分かれます。メイン回線になくてもサブ回線側にはある、ということが起こりえるので、両方見ておくと確実です。設定手順そのものはiPhoneでデュアルSIM(eSIM)を設定する手順、PixelでデュアルSIMを設定する手順にまとめています。

楽天モバイルの「Rakuten Link」は別枠として考える#

ひとつ例外的に見えるのが、楽天モバイルの通話アプリRakuten Linkです。Wi-Fi接続中でも発信・着信ができる旨が公式に案内されています。

ただしこれはアプリ側の仕組みで、回線機能としてのVoWiFiとは別物です。同じ表に混ぜて考えないほうがいいのは、公式が次のような注意点を書いているためです(Rakuten Link)。

  • Wi-Fiに接続した状態で着信すると、着信表示が「不明」や「非通知」になることがある
  • 初期設定は「Wi-Fiに接続せず、アンテナマークが表示されている状態」で行うことが推奨されている
  • 国内の緊急電話をかける場合は、自動的にOS標準の電話アプリに切り替えて発信する

3つめが重要です。緊急通報はアプリ側で完結せず、結局は電話回線を使うということです。「Rakuten Linkを入れておけばWi-Fiだけで何でもできる」という理解は危険です。

使うつもりなら、平常時に一度、実際にモバイル回線を切ってWi-Fiだけの状態で発着信を試しておくことをおすすめします。

110番・119番はWi-Fi通話では代替できない#

ここが、この記事でいちばん誤解してほしくない部分です。仮にWi-Fi通話が使えたとしても、緊急通報をWi-Fi頼みにしてはいけません。

  • Appleは、Wi-Fi通話をオンにする際に緊急通報のための住所登録を求める場合があるとしています。裏を返せば、Wi-Fi経由では発信元の位置が自動では分からないことがあるということです
  • LINE通話などのアプリ通話から110番・119番にはかけられません。格安SIMでも、データ専用SIMでは発信できないと各社が案内しています(→格安SIMで110番・119番はかけられる?)

総務省消防庁は、携帯電話等から119番がつながりにくい場合の対応として次のように案内しています。

「公衆電話を利用する、近隣の方やお店に119番通報を依頼する、消防署所に直接駆け込むなどのご対応をお願いいたします。」 (119番緊急通報|総務省消防庁)

Wi-Fiを探すより、公衆電話を探すほうが早い場面があるということです。使い方と探し方は災害時の公衆電話の使い方にまとめています。

Wi-Fi通話が使えない前提で、何を用意しておくか#

日本ではWi-Fi通話を当てにできない——そう分かったうえで、では何が備えになるのか。現実的な選択肢は3つです。

① Wi-Fiで届く連絡手段を家族と決めておく

電話番号での通話が復活しなくても、インターネットを通る手段は生きます。LINEなどのアプリ通話、iMessage、RCS、メール、web171や各社の災害用伝言板(Web版)は、Wi-Fiだけで使えます。逆にSMSは携帯電話ネットワークが必要で、Wi-Fiでは送れません。この線引きは圏外でもWi-Fiがあれば連絡できる?で表にしてあります。

決め方そのものは家族の安否確認ルールの決め方を参考にしてください。

② そもそもWi-Fiが手に入るかを考えておく

「Wi-Fiがあれば」という前提自体が、災害時には崩れがちです。自宅のWi-Fiは停電した時点で止まります(→停電すると自宅のWi-Fiと固定電話は止まる)。大規模災害時に無料開放される00000JAPANは使えますが、通信が暗号化されていないという制約があります(→00000JAPANの安全な使い方)。

③ 別の回線網でサブ回線を1本持つ

いちばん確実なのは、Wi-Fiに頼らず別の携帯回線を確保しておくことです。ただし、契約先が違っても回線元が同じでは意味が薄くなります。自分の格安SIMがどの回線を使っているかは格安SIMの「回線元」一覧で確認できます。維持費の比較は災害用サブ回線は月いくらで維持できる?にまとめました。

なお、「圏内表示なのに電話だけつながらない」という状況は、圏外ではなく通信の集中(輻輳)による規制のことがあります。この場合はWi-Fiを探さなくても、パケット通信側は通ることがあります(→災害時に電話だけつながらないのはなぜ?)。

まとめ#

Wi-Fi通話(VoWiFi)は、海外では広く提供されている便利な機能です。しかし日本については、Appleの公式一覧(2026年9月18日公開)に4社とも記載がなく、各社の公式サイトでも提供を案内するページを確認できませんでした。

  • 備えとしては、Wi-Fi通話は当てにしない前提で組む
  • 自分の端末に項目があるかは、いま設定画面を開けば分かる
  • 仮に使えても、110番・119番はWi-Fi通話では代替できない
  • Wi-Fiで生きるのはインターネットを通る手段。安否の伝達はそれで十分に成立する

「使えるはずの機能が、設定画面に項目すらなかった」というのは、災害時に気づいてもどうにもなりません。確認は今日のうちに済ませておいてください。

災害時の連絡手段の全体像は災害時の連絡手段まとめに、つながらない原因の切り分け手順は通信障害かも?と思ったらまず確認することにまとめています。