大きな地震のあと、アンテナは立っているのに電話だけがつながらない——災害の記録ではよく見る状況です。
このとき起きているのは、端末の故障でも、基地局が壊れたことによる通信障害でもないことがあります。通信が集中しすぎた状態(輻輳=ふくそう)と、それを防ぐために携帯会社が自ら実施している通信規制です。
先に結論です。
- 災害直後に電話がつながりにくいのは、故障ではなく設計どおりの制御であることが多い
- 携帯各社は音声通話とパケット通信を分けて制御しており、パケット側への規制は最小限に抑えられる
- したがって発災直後は、通話ではなくテキスト(伝言板・メッセージ)に切り替えるのが現実的
- 何度もかけ直すと輻輳を悪化させ、110番・119番の妨げにもなり得る
順に見ていきます。
「輻輳(ふくそう)」とは何か
ソフトバンクは輻輳を、**「災害などが発生した際、被災地域で安否確認などのために携帯電話のアクセスが集中し、通常の通話やデータの送受信が行えなくなる状態」**と説明しています。
規模感については、NTTドコモが**「通常の数十倍にもおよぶ被災地や被災地への通信が集中」し、ネットワーク設備の処理能力を超えると説明しています。その結果、「ネットワーク設備のパフォーマンスが著しく低下」**し、多くの利用者が通信困難に陥ります。
重要なのは、この集中が被災地の中だけで起きるわけではないという点です。ドコモは、災害時には広範囲の基地局エリアからの通信が集中するため複数の基地局で通信を制限し、さらに全国からの安否確認や見舞いの呼が増大するため中継交換機でも通信を制限する場合がある、と説明しています。
つまり、自分が被災地にいなくても、被災地に電話をかけようとすればその一部になるということです。
なぜ携帯会社は「自分から」規制するのか
つながらなくするのは一見おかしな話ですが、これは輻輳が広がって通信システム全体がダウンするのを避けるための措置です。
ソフトバンクは、輻輳の拡大による大規模な通信システムのダウン(通信障害)を回避するため、**「輻輳の規模に応じて通信サービスを一時的に規制することで、一定の通信サービスを維持・確保します」**としています。
ドコモはこれを、法令上の責務と結びつけて説明しています。**「災害時においても電気通信事業法で定められた110番や119番などの重要通信を確保する責務」があり、輻輳が「長時間かつ広範囲に拡大すると、重要通信さえも通信しづらい状況となる可能性」**があるため、通信をコントロールする必要がある、という整理です。
裏を返せば、規制をかけてもなお、110番・119番がつながりにくくなる場合はあるということでもあります。ソフトバンクも、電気通信事業法で定められた110番や119番などの重要通信も輻輳によりつながりにくくなる場合がある、と明記しています。
なお、災害時に規制を受けずに発信できる「災害時優先通信」という仕組みがありますが、総務省の説明のとおり、これは国・自治体、警察・消防、医療機関、電力・ガス、自衛隊といった防災関係機関等に提供されるもので、一般の利用者が申し込めるものではありません。
一般の利用者が使える例外に近いものとしては公衆電話があります。公衆電話は災害時優先電話として位置づけられ、通信規制の対象外として優先的に取り扱われます。詳しくは災害時の公衆電話の使い方にまとめています。
音声通話とパケット通信は「別々に」制御されている
ここが、災害時の行動を決めるうえでいちばん実用的なポイントです。
ドコモは、**「音声通話とiモード/spモードなどのパケット通信を分離したコントロール」を行っていると説明しています。そのうえで、音声通話が多い場合でも「パケット通信に対するコントロールを最小限」**にして、災害用伝言板などのサービスを優先して使えるようにしている、としています。
KDDIも、災害に備える通信確保ガイドの中で、**「携帯電話の通話回線が混雑した場合は、テキストメッセージやSNS、チャットアプリを使った方がつながりやすい」と案内しています。さらに発災直後については、災害用伝言板サービスやSNSのメッセージ機能を使い、「短文やスタンプで端的に状況を伝えると、混雑時でも比較的つながりやすい」**と見られる、としています。
まとめると、災害直後の優先順位はこうなります。
| 手段 | 災害直後の通りやすさ | 補足 |
|---|---|---|
| 音声通話(通常の電話) | 通りにくい | 規制の主対象になりやすい |
| 災害用伝言板・web171 | 比較的通りやすい | パケット通信を使う |
| SMS・メッセージアプリ | 比較的通りやすい | 短文ほど良い |
| 緊急速報メール(受信) | 影響を受けない | 後述 |
| 公衆電話 | 規制対象外 | 硬貨・テレホンカードを備える |
「声を聞いて安心したい」という気持ちは自然ですが、発災直後の通話は自分にとっても他人にとっても成功率が低い選択になります。落ち着いてからかけ直す、という切り替えが要ります。
何度もかけ直すのは逆効果になる
つながらないと、つい連続でリダイヤルしたくなります。ただ、輻輳は「集中したアクセス」そのものが原因なので、リダイヤルは輻輳を悪化させる側に働きます。
規制がかかっている状況では、かけ直しの回数を増やしても成功率が上がるわけではなく、重要通信の確保をさらに難しくする方向に作用し得ます。テキスト系の手段に切り替えるほうが、自分の目的(安否を伝える)にも早く届きます。
「通信障害」と「輻輳による規制」は別物
どちらも「つながらない」ですが、原因も、待つべきかどうかも違います。
| 輻輳・通信規制 | 通信障害 | |
|---|---|---|
| 原因 | 通信の集中(利用者側の需要) | 設備の故障・停電・災害による損壊など |
| 誰に起きる | 特定エリア・特定方向への通信 | その事業者のネットワーク全体や広域 |
| データ通信 | 音声より規制が緩められることがある | 音声もデータもまとめて不通のことがある |
| 打つ手 | テキスト系に切り替える/時間を空ける | 別回線・Wi-Fi・公衆電話に切り替える |
実際には両方が同時に起きていることもあります(設備が被災して残った設備に通信が集中する、など)。切り分けの手順そのものは通信障害かも?と思ったらまず確認することにまとめているので、あわせてご覧ください。
格安SIMユーザーが押さえておきたいこと
格安SIM(MVNO)やサブブランドは、大手4社のいずれかのネットワークを借りて使っています。輻輳と通信規制はそのネットワーク(回線元)で起きるため、「格安SIMだから特に規制される」「大手だから安全」という話ではなく、同じ回線元を使っている人は同じ影響を受けると考えるのが基本です。
ここから導かれる備えは2つです。
1つ目は、サブ回線を「別の回線元」で持つこと。 メイン回線と同じネットワークをもう1本増やしても、輻輳や障害に対する分散にはなりません。回線元が違えば、一方が規制されているときにもう一方が使える可能性が残ります。維持費を抑えた2本目の持ち方はpovo2.0を災害用のサブ回線にする方法に、端末側の設定はiPhoneでデュアルSIM(eSIM)を設定する手順とPixelでデュアルSIMを設定する手順にまとめています。
2つ目は、テキスト系の手段を先に用意しておくこと。 災害用伝言板は、契約先によって自分の情報を登録できるかどうかが違います。格安SIMだと登録できず、web171を案内されるケースがあります。これは当日に調べても遅いので、携帯4社の災害用伝言板の使い方で自分の契約がどちらなのかを先に確認しておくのが確実です。
規制がかかっていても届く/使えるもの
緊急速報メール(緊急地震速報・津波警報など)は影響を受けない
ドコモは緊急速報エリアメールを、緊急地震速報や津波警報、気象等に関する特別警報などの情報を**「回線混雑の影響を受けず、対象エリアのお客さまに一斉にお知らせするサービス」**と説明しています。
これは、個別に通信するのではなく対象エリアへ一斉配信する仕組みだからで、輻輳の影響を受けにくい数少ない手段です。ただし受信できるかどうかは端末側の条件で決まるため、格安SIMに乗り換えた人ほど確認しておく価値があります。詳しくは格安SIMでも緊急速報メールは受信できる?にまとめました。
災害用伝言板・web171
パケット通信を使う仕組みなので、音声通話が規制されている局面でも比較的通りやすい手段です。ドコモも、パケット通信への規制を最小限にする理由として災害用伝言板などの利用を挙げています。使い方は携帯4社の災害用伝言板の使い方に整理しています。
00000JAPAN(無料Wi-Fi)
大規模災害時に無料開放される統一SSIDです。携帯回線とは別系統のWi-Fiを使うため、モバイル網が混雑・不通のときの代替になり得ます。ただし通信が暗号化されていないという明確な弱点があるので、使い方には条件があります。00000JAPANの安全な使い方を先に読んでおいてください。
公衆電話
前述のとおり通信規制の対象外です。硬貨やテレホンカード、設置場所の事前確認が要ります。災害時の公衆電話の使い方にまとめています。
注意:終わっているサービスを当てにしない
災害時の連絡手段として「災害用音声お届けサービス」を挙げている情報を今でも見かけますが、このサービスは2022年3月31日をもって終了しています。NTTドコモ・KDDI・沖縄セルラー電話・ソフトバンクの4社が、類似サービスの普及を踏まえて終了したもので、ドコモは安否確認については引き続き災害用伝言板の利用を案内しています。
音声メッセージをパケットで届ける仕組みだったため輻輳に強い手段でしたが、今は選択肢に入りません。防災の情報は古いまま残りやすいので、備えを見直すときは提供状況もあわせて確認しておくと安全です。
ドコモの一部4G機種は「混雑時の緊急通報」に注意
輻輳と直接関係する、比較的新しい注意点です。
NTTドコモは、FOMA・iモードのサービス終了に関連して、**一部の4G機種について「ネットワーク故障や輻輳時に緊急呼がつながりにくくなる場合があります」**と案内しています。対象機種では、2025年12月25日から発信前に音声ガイダンスが流れる運用が始まっており、ガイダンスでは2026年4月1日から通信混雑時に110番などの緊急通報がつながりにくくなる旨と、機種変更の検討が案内されています。
古い端末を使い続けている場合や、古いスマホを災害用の予備端末にするようなかたちで手元に残している場合は、その端末が対象かどうかを確認しておく価値があります。対象機種はドコモの公式お知らせで公表されているため、最新の一覧はドコモの公式ページでご確認ください。
そもそも格安SIMでは、契約の種類によって110番・119番が発信できないことがあります。こちらは格安SIMで110番・119番はかけられる?に整理しています。
平常時にやっておく4つのこと
輻輳は起きてから対処できるものではないので、準備がそのまま結果になります。
- 家族と**「発災直後は電話をかけない。伝言板とメッセージを使う」**という取り決めをしておく
- 災害用伝言板(または web171)に自分が登録できるかを確認しておく
- サブ回線を持つならメインと違う回線元を選ぶ
- 手持ちの端末が緊急速報メールを受信できる状態かを確認しておく
1つ目が抜けやすいところです。仕組みを知っていても、家族が電話をかけ続ける前提でいると結局つながりません。ルールは共有してはじめて機能します。
お金をかけずにできる備えは災害時の連絡手段まとめに、連絡手段を使い続けるための電源の確保は災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定と災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?にまとめています。
まとめ
災害直後に電話がつながらないのは、多くの場合故障ではなく、重要通信を守るための制御です。ここを理解していると、端末を疑って時間を溶かすことも、リダイヤルを繰り返して事態を悪くすることもなくなります。
やることはシンプルで、通話をあきらめてテキストに切り替えること。そして、そのテキストの手段(伝言板・メッセージ・サブ回線)を平常時に用意しておくことです。
この記事の情報について:本記事は、NTTドコモ「重要通信の確保」、NTTドコモ「災害時に知っておきたいこと」、NTTドコモ「災害用音声お届けサービス終了のお知らせ」、NTTドコモ「『FOMA』および『iモード』サービス終了に関する音声ガイダンスのご案内(通信混雑時に緊急通報がつながりにくくなる機種向け)」、ソフトバンク「復旧への取り組み」、KDDI「災害に備える通信確保ガイド」、総務省「非常時における通信|災害時優先通信」の各公式情報をもとに、2026年8月1日時点で確認した内容です。通信規制の実施内容は災害の規模や事業者の判断によって異なり、本記事の内容がそのまま当てはまるとは限りません。実際の災害時には、契約先および各社の最新の公式情報をご確認ください。