災害の備えを考えるとき、スマホの充電やモバイルバッテリーには意識が向きます。一方で見落とされやすいのが、停電した瞬間に自宅のWi-Fiと固定電話が止まるという点です。
普段Wi-Fi中心で使っている人ほど、この影響は大きくなります。通信がすべてスマホのモバイル回線に集中するからです。
先に結論です。
- 停電するとホームゲートウェイやルーターの電源が落ちるため、自宅のWi-Fiは使えない。NTT東日本・NTT西日本とも公式に案内している
- **ひかり電話は「停電時は緊急通報を含む通話ができません」**とNTT東日本が明記。110番・119番もかけられない
- UPS(無停電電源装置)で一定期間使える場合はあるが、自宅が停電していなくても通信会社側の設備が停電していれば使えない
- したがって現実的な備えは、Wi-Fiがない前提でスマホの回線・データ容量・電池を用意しておくこと
順に見ていきます。
① 停電で止まるサービスの一覧(NTT東西の公式案内)
NTT東日本とNTT西日本は、それぞれ「停電に伴う通信サービスへの影響について」というページで、停電中に発着信・接続ができなくなるサービスを挙げています。給電設備・蓄電設備をお客さま側で用意していない場合が前提です。
| 区分 | 止まるとされているサービス |
|---|---|
| 電話系 | ひかり電話、ISDN(INSネット)、加入電話の一部、光回線電話 |
| インターネット系 | フレッツ光、フレッツ・ADSL、フレッツ・ISDN、ネットワーク接続機器(ホームゲートウェイ、ルータ等) |
| 映像系(NTT西日本の記載) | フレッツ・テレビ |
| ビジネス系(NTT西日本の記載) | ビジネスイーサ、専用線 |
注目したいのは、インターネット系に**「ネットワーク接続機器(ホームゲートウェイ、ルータ等)」が明記されている**ことです。回線そのものの話ではなく、自宅に置いてある機器が電気で動いている以上、停電すればそこで止まります。
つまり、光回線の契約が生きていても、停電中に自宅のWi-Fiは飛びません。スマホ・パソコン・スマートスピーカー・見守りカメラなど、宅内Wi-Fiにぶら下がっているものはまとめて使えなくなります。
「加入電話の一部」という書き方に注意
電話系で「加入電話の一部」となっているのは、電話機の種類によって結果が変わるためです。両社の注記は次のとおりです。
- NTT東日本:商用電源を使用しない電話機などを利用している場合を除き、ご利用いただけない場合がございます(留守番電話、コードレスホン、FAX、ビジネスホン等)
- NTT西日本:ご家庭やオフィスの電源コンセントへ接続してご利用いただいている電話については、ご利用いただけない場合がございます(コードレスホン、FAX、ビジネスホン、PBX(構内交換機)等)
要するに、加入電話(アナログ回線)を契約していても、コンセントにつないで使うタイプの電話機は停電すると使えません。留守番電話機能付きの親機、コードレスホン、FAX複合機はほぼこれに当たります。
逆に言えば、電源コンセントを使わない電話機であれば停電中も使える場合がある、というのが両社の書き方です。「固定電話があるから安心」ではなく、自宅の電話機がどちらのタイプかを確認しておく必要があります。
② ひかり電話は「緊急通報を含む通話ができません」
固定電話の中でも、ひかり電話は停電に弱いとはっきり書かれています。NTT東日本のFAQ「ひかり電話は停電の場合も、通話できるのですか?」の回答は次のとおりです。
**停電時は緊急通報を含む通話ができません。**無停電電源装置(UPS)等をお客さまにてご用意・ご利用いただくことで、一定期間、通話が可能となる場合があります。
ポイントは「緊急通報を含む」という部分です。110番・119番も、停電中のひかり電話からはかけられません。
自宅の電話がひかり電話だけという世帯は珍しくありません。その場合、停電中の緊急通報の手段はスマホ(または公衆電話)しかないことになります。ここは家族全員が知っておいたほうがよい部分です。
格安SIMを使っている場合、緊急通報が発信できるかどうかはSIMの種類で変わります。データ専用SIMでは110番・119番が発信できないと各社が案内しており、この点は格安SIMで110番・119番はかけられる?に整理しました。「家の電話は停電で不通、スマホはデータ専用SIM」という組み合わせだと、緊急通報の手段が残らないことになります。
停電中もボイスワープの「無条件転送」は使える
ひかり電話が通話できなくても、転送サービスには例外があります。NTT東日本のFAQによれば、
転送元のひかり電話の呼び出し音を鳴らさずに、かかってきた電話を転送先へ直接転送する**「無条件転送」に限り利用が可能**です。
とされています。ただし同じFAQに、次の注意も書かれています。
- 停電時には、ボイスワープを契約している回線に接続されている電話機からの設定操作(転送の開始、停止等)ができません
- ネットワーク設備の故障等により、ひかり電話が利用できない場合には転送されない場合があります
そのうえで、事前に外出先など別の電話から操作できるリモートコントロール機能の設定が勧められています。停電してから設定しようとしても、その電話機は動きません。使うなら平常時に設定しておくタイプの備えです。
③ UPS・ポータブル電源で機器を生かす手と、その限界
NTT東日本のFAQにあるとおり、UPS(無停電電源装置)を用意すれば一定期間通話できる場合があります。NTT西日本はさらに具体的で、「フレッツ 光ネクスト」「フレッツ 光ライト」でひかり電話を利用している場合、市販のUPS等で一時的な電源確保が可能とし、自社の情報機器として UPSmini500SW を挙げています。停電時にひかり電話対応機器(ホームゲートウェイ)とつなげば、ひかり電話やインターネットの利用が可能になるという案内です。
ただしNTT西日本は、同じページに3つの但し書きを添えています。
- 一部のひかり電話対応機器(ホームゲートウェイ)では利用できない
- ホームゲートウェイよりお客様側に設置される電話機やパソコン等への給電は、別途お客様で個別に対策する必要がある
- 自宅が停電になっていない場合でも、NTT側の通信設備が停電している場合はサービスを利用できないことがある
3つ目が特に重要です。宅内機器を生かしても、局側やその先が止まっていれば通信はできません。UPSやポータブル電源は「自宅の停電だけが原因なら復旧できる」手段であって、災害全般に効く保険ではない、という理解が要ります。
ポータブル電源でルーターを動かすことを考えるなら、動かしたい機器の消費電力(W)を実物のラベルで確認してから選ぶ必要があります。容量(Wh)と出力(W)は別の指標で、この違いは災害用ポータブル電源の選び方にまとめました。スマホの充電が主目的なら、ルーターまで動かす前提で大型の製品を買う必要はないというのが率直なところです。
停電が復旧したのに通信できないとき
これは知っておくと得をする部分です。NTT東日本・NTT西日本とも、次のように案内しています。
停電復旧後に通信ができない場合は、一旦通信機器等の電源を切ってから、再度電源を入れると回復する場合があります
NTT東日本のFAQ「停電復旧後にひかり電話が使えなくなったんだけど、なぜ?」でも、ひかり電話ルーターの電源を抜き差しして再起動することで利用できる状態になる、と案内されています。
停電が明けた直後に「まだ復旧していない」と判断して問い合わせが殺到しがちな場面ですが、まず機器の電源を入れ直す——この手順を家族で共有しておくだけで、無駄な待ち時間を減らせます。
④ 自宅Wi-Fiが落ちると、スマホ側で何が起きるか
ここからが、格安SIMユーザーにとっての本題です。停電で自宅Wi-Fiが止まると、それまでWi-Fiに逃がしていた通信がすべてモバイル回線に乗ります。
起きることは主に3つです。
データ容量が一気に減る
「自宅ではWi-Fiだから」と小容量プランを選んでいる場合、この前提が崩れます。安否確認、災害情報の確認、家族との連絡、動画のニュース——停電中はむしろ通信量が増える場面で、Wi-Fiという逃げ道がなくなります。
自分のプランが容量を使い切ったあと何kbpsになるのかは契約によって決まっており、使い切ってから調べても遅い部分です。各社の公式表記と、iPhone・Androidの節約設定は災害時にデータ容量が尽きたら?にまとめました。
家族の分がすべて1本に集中する
家族それぞれの端末がWi-Fiにつながっていた状態から、**各自のモバイル回線(またはテザリングの親機1台)**に切り替わります。全員分のサブ回線を契約していない場合、1台の親機に負荷が集中し、親機の電池とデータ量が先に尽きるという問題が起きます。設定手順と、この負担の偏りについては災害時に1本の回線を家族で分け合うで解説しています。
クラウドに置いたものが開けなくなる
地図、家族の連絡先、保険証券の控え、避難所のリスト——クラウド上にあるだけのデータは、通信が細ったときに開けません。地図については、事前ダウンロードが前提のオフライン地図を、位置情報の共有については災害前に家族と位置情報を共有しておくを参照してください。
⑤ 停電中の連絡手段としてNTTが案内しているもの
NTT東日本・NTT西日本とも、停電で電話系サービスが使えない場合は公衆電話、携帯電話等、他の方法を利用してほしいと案内しています。
公衆電話については、両社が同じ注意を添えています。
- 停電中、テレホンカードは利用できない
- グレー色の公衆電話は、内蔵バッテリーの枯渇により一般通話ができなくなる場合がある(ただし緊急通報・無料通話は利用可能)
つまり、停電を想定するなら財布の中はテレホンカードではなく硬貨です。公衆電話の操作手順は機種によって違い、災害時には無料化されることもあります。詳しくは災害時の公衆電話の使い方にまとめました。
なお、停電が広い範囲・長時間に及ぶと、影響は宅内機器だけにとどまりません。総務省の「令和6年版 情報通信白書」は、停電、通信設備の故障、ケーブル断などにより通信サービスにも支障が生じていると述べ、総務省・災害時テレコム支援チーム(MIC-TEAM)が被災自治体への移動電源車の貸与などの支援を行っていると記しています(令和6年能登半島地震では石川県庁に職員が派遣されたと記載)。
電源の問題は、自宅の中だけで完結しない——この前提で、複数の連絡手段を用意しておくのが現実的です。手段の一覧は災害時の連絡手段まとめに整理しています。
⑥ 今日できるチェックリスト
- 自宅の固定電話がひかり電話か加入電話かを確認した
- 電話機がコンセントにつなぐタイプかどうかを確認した
- ひかり電話しかない場合、停電中は110番・119番がかけられないことを家族で共有した
- スマホのSIMが音声通話に対応しているか確認した(緊急通報の可否)
- 自宅Wi-Fiが止まった前提で、モバイル回線のデータ容量が足りるか見直した(データ容量の備え)
- テザリングの親機を誰の端末にするか決めた(家族での回線共有)
- モバイルバッテリーを満充電にしてある(容量の選び方)
- 停電復旧後は通信機器の電源を入れ直すことを家族に伝えた
- 財布に硬貨を入れてある(公衆電話用。テレホンカードは停電中使えない)
- ボイスワープを使うなら、リモートコントロールの設定を平常時に済ませた
まとめ
- 停電すると、ホームゲートウェイ・ルーターが止まるため自宅Wi-Fiは使えない(NTT東西とも明記)
- ひかり電話は「停電時は緊急通報を含む通話ができません」(NTT東日本FAQ)。110番・119番も不可
- 加入電話でも、コンセントにつなぐ電話機は使えない。電源を使わない電話機は例外として書かれている
- UPS・ポータブル電源は有効だが、局側の設備が停電していれば結局つながらない
- 停電復旧後に通信できないときは、まず機器の電源を入れ直す
- 停電中の公衆電話は、テレホンカード不可・硬貨で(緊急通報と無料通話はグレー電話でも可能)
自宅の停電対策は、つい「スマホをどう充電するか」に寄りがちです。しかし実際には、充電できても、Wi-Fiがない状態でモバイル回線をどう使うかという問題が同時にやってきます。充電手段そのものは停電中にスマホをどう充電する?に、電池を減らさない設定は災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定にまとめました。あわせて確認しておくと、停電したときの動き方が具体的になります。
この記事の情報について:本記事はNTT東日本「停電に伴う通信サービスへの影響について」(2014年12月26日)、NTT東日本のよくあるご質問「ひかり電話は停電の場合も、通話できるのですか?」「停電の場合にひかり電話が利用できなくても、ボイスワープは使えるのですか?」「停電復旧後にひかり電話が使えなくなったんだけど、なぜ?」、NTT西日本「停電に伴う通信サービスへの影響について」(2014年12月26日・2018年12月8日追記)、および総務省「令和6年版 情報通信白書」(非常時における通信サービスの確保)をもとに、2026年8月16日時点で確認した内容です。対象サービス・機器の仕様や各社の取扱いは変更される場合があります。UPS等の対応可否はご利用中のホームゲートウェイの機種によって異なるため、導入前に必ず各社の最新の公式情報と機器の取扱説明書をご確認ください。緊急時は自治体・消防・警察等の公的な案内に従ってください。