停電が続いたとき、車を持っている人の多くが「車で充電すればいい」と考えます。実際それは有効な手段です。ただし、普通のガソリン車のシガーソケットは「非常用電源」ではありません。使える範囲には公式に決められた上限があり、使い方を間違えると車のバッテリーを失います。

先に結論です。

  • アクセサリーソケット(シガーソケット)の上限は、トヨタの取扱説明書ではDC12V/10A(消費電力120W)未満。複数のソケットを使う場合は合計で120W未満
  • ソケットが使えるのはエンジンスイッチがACCまたはONのとき
  • 取扱説明書には「エンジンが停止した状態でアクセサリーソケットを長時間使用しないでください」と明記されている
  • JAFのテストでは、ガソリン車で800Wの電気ストーブを使ったところ9分でインバーターの保護回路が働いて給電が止まった(バッテリーは新品)
  • 充電器を挿したままにしない。トヨタは「モバイルバッテリーなどの、充電機能を備えた電気製品」を外すよう案内している
  • バッテリーが上がると、充電手段だけでなく移動手段も失う

スマホの充電そのものは消費電力が小さいため、電気ストーブのような話にはなりません。ただ「だから安心」とはならない理由が、この記事の本題です。

この記事が合わない人へ(先に確認)#

① 車のソケットで使える上限は「120W未満」#

まず公式の条件を押さえます。トヨタの取扱説明書(シエンタ)では、アクセサリーソケットについて次のように案内されています。

DC12 V/10 A(消費電力120W)未満の電気製品を使用するときの電源としてお使いください。

複数のソケットがある車でも、枠は共有です。同じページには「すべてのアクセサリーソケットに接続されている電気製品の消費電力合計を120W未満にしてください」とあります。さらに「DC12V/10A(消費電力120W)以上の電気製品を使用しないでください」とも明記されています。上限を超えればヒューズが切れ、そのソケットは使えなくなります。

作動条件もあります。アクセサリーソケットが使えるのはエンジンスイッチがACCまたはONのときです。完全にOFFの状態では電気が出ない車が多い、ということです。

スマホの充電はこの枠にはまず収まります。Appleが挙げている自社の電源アダプタは5W〜20Wで、iPhone 12以降の高速充電の条件も「20W以上の電源アダプタ」です(機種ごとの条件は災害時にスマホを早く充電するには?にまとめました)。家族4人ぶんを同時に挿しても、120Wの枠に対しては余裕があります。

問題はW数ではなく、時間です。

② エンジンを止めたまま使い続けてはいけない#

トヨタの取扱説明書には、はっきりこう書かれています。

エンジンが停止した状態でアクセサリーソケットを長時間使用しないでください。

理由はバッテリー上がりです。JAFは、エンジンを止めた状態について「エンジンを停止した状態でライト類や室内灯、ウインカーなどを点け続けると、車載しているバッテリーに充電されないまま、どんどん蓄えられた電気を消費してしまいます」と説明しています。発電が止まっているので、使えば減る一方になります。

どれくらいで限界が来るのかを示す実測として、JAFが2018年2月に行ったユーザーテストがあります。BEV・PHV・HV・ガソリン車の4台で車内から家電を使う検証で、ガソリン車はDC12Vバッテリーに定格出力1,000Wのインバーターをつないでいます。

結果はこうです。

  • 電気ポット(430W)や電気ストーブ(400・800W)は使用することができた
  • ただし電気ストーブを800Wで9分間使用したところ、バッテリー(新品)の電圧が降下し、インバーターの保護回路によって電気の供給が停止した
  • エンジンをかけた状態でも電圧の降下が確認できた

JAFはまとめとして「一般的な車は、バッテリーや発電機に余裕がないため、エンジンの始動・不始動にかかわらず、消費電力が大きめの家電は長時間使うことはできなかった」「バッテリー上がりを防ぐため、エンジン始動時でも消費電力が大きい家電を使い続けることは避けたい」としています。

スマホ充電は800Wの電気ストーブとは桁が違うため、この9分という数字がそのまま当てはまるわけではありません。一方で「何時間なら安全か」を示す公的な数値も見つかりませんでした。バッテリーの状態や気温でも変わります。

そこで、時間を見積もるのではなく運用で避けるのが現実的です。

  • 充電はその場にいる間だけにして、離れるときは抜く
  • 寝る前・車を降りるときに挿したままにしない
  • 長時間使いたいなら、車からモバイルバッテリーを充電して、そこからスマホに回す(車につながっている時間を短くできる)

3つめは相性が良い方法です。容量の考え方は災害用モバイルバッテリーの容量の選び方にまとめています。

③ 挿したままにすると、別の不具合が起きることがある#

バッテリー上がりとは別に、挿したままにすること自体への注意もあります。トヨタの取扱説明書には次の記載があります。

モバイルバッテリーなどの、充電機能を備えた電気製品をはずしてください。接続したままにしておくと、エンジンスイッチを正常にOFFすることができなくなる場合があります。

JAFも同じ症状を扱っており、原因として「モバイルバッテリーからの電気が車両側に影響を与え、オフにならない可能性があります」と説明し、対処として「アクセサリーソケット(シガーソケット)およびUSB充電ソケットから機器を取り外してください。改善しない場合、自動車販売店や整備工場にて点検を受けてください」と案内しています。

エンジンが切れない状態は、災害時にはかなり困ります。使い終わったら抜くを習慣にしてください。

なお、ソケットまわりの物理的な注意もあります。トヨタは「アクセサリーソケットに異物が入ったり、飲料水などがかかったりしないように、使用しないときはフタを閉めておいてください」としています。浸水や雨のあとに車内が濡れている場面では、ここも見てから使ってください。

④ バッテリーが上がると、失うのは充電手段だけではない#

車のバッテリーを使い切ることの重さは、「充電できなくなる」だけではありません。車が動かなくなります。避難や物資の調達に車を使う前提が崩れます。

しかもバッテリー上がりは、平常時でも最も多いトラブルです。JAFの2025年度(2025年4月〜2026年3月累計)のロードサービス救援データでは、出動理由の1位がバッテリー上がりで997,116件・構成比43.17%、2位がタイヤのパンク・バースト・エアー圧不足で482,696件・20.90%でした。総救援件数は2,309,716件で、JAFは「約13.7秒に1件の割合で出動」としています。

災害時はこの救援が期待できません。道路が使えず、依頼が集中するからです。つまり自分で上げないようにするしかない場面になります。

復旧側の制約も知っておく価値があります。JAFはバッテリー上がりの応急処置について、救援車を使う場合「トラックは電圧が違い24Vと高圧であるため使用不可」、さらに「ハイブリッド車は車の構造上、他の車のバッテリー上がりを救援することはできません」と案内しています。近くに車があっても救援車になれないことがある、ということです。

また、JAFはバッテリーの寿命を「一般的に2〜3年といわれている」とし、「バッテリーが原因になるトラブルは2年を過ぎた頃から多くなる」としています。車を災害時の電源として数えるなら、バッテリーの年数は数えておいたほうがいい数字です。

⑤ エンジンをかけて充電するなら、排気に注意#

「エンジンをかけながら充電すれば減らない」と考えたくなりますが、ここには命に関わる注意が付きます。とくに雪や土砂で車の周囲がふさがっている状況では、排気が車内に回り込む危険があります。

JAFのユーザーテストの結果と、発電機を含む一酸化炭素中毒の注意点は停電中にスマホをどう充電する?にまとめました。車を電源として使う前に、そちらの「やってはいけないこと」を先に読んでおいてください。

夏場は別のリスクもあります。高温になった車内は端末にもモバイルバッテリーにも厳しい環境です。充電しながらダッシュボードに置いたままにすると、端末側が発熱で充電を止めることもあります。温度と充電の関係は災害時のスマホの温度対策を参考にしてください。

⑥ 電動車(EV・HV・PHV・FCV)なら前提が変わる#

ここまではガソリン車の話です。電動車を持っているなら、桁の違う電源になります。

JAFの同じユーザーテストでは、BEV・PHV・HV(エンジン始動が前提)では最も消費電力の高いホットプレートまで使用でき、5時間で電気ポットを沸かした回数はBEVが30回(残量3分の2程度)、PHVが27回だったとされています。HVはバッテリー容量が小さいため1回でした。

車内コンセントからの給電手順(最大1500W)と、資源エネルギー庁が示している注意点は停電中にスマホをどう充電する?にまとめています。手順は車種ごとに違うため、平常時に取扱説明書を見て一度試しておくことが実質的な備えになります。

据え置きの電源をそろえるなら、ポータブル電源も選択肢です。容量(Wh)と定格出力(W)の見方は災害用ポータブル電源の選び方にまとめました。ただし高温になる車内に積みっぱなしにしないことが前提です。

⑦ 今日できるチェックリスト#

  • 自分の車の取扱説明書で、アクセサリーソケットの上限(W)と作動条件を確認する
  • カーチャージャーとUSBケーブルを車に常備する(家族のぶんの本数も数える)
  • 「使い終わったら抜く」を家族で共有する(エンジンが切れなくなる症状の予防)
  • 車のバッテリーの交換からの年数を確認する(2年を過ぎたら点検の目安)
  • 電動車なら、車内コンセントからの給電手順を一度試す
  • 車から直接ではなく、モバイルバッテリー経由で充電する流れを決めておく(容量の考え方)
  • 停電時の給電手段の優先順位を決めておく(停電中にスマホをどう充電する?)

まとめ#

車は停電時の充電手段として現実的ですが、ガソリン車のシガーソケットは120W未満・エンジン停止中の長時間使用は避けるという条件付きの電源です。スマホ充電なら電力は足りますが、挿したままにする運用がバッテリー上がりとエンジンが切れない症状を招きます。

そして、車のバッテリーを失うと移動手段まで失います。JAFの救援データで出動理由の1位がバッテリー上がりであることを考えると、災害時に自力で復旧できない前提で扱うのが妥当です。

充電できたあとの話も残っています。端末が満充電でも、停電が長引いて基地局側の電源が尽きれば圏外になります。そのとき何が起きるかは停電が長引くと基地局が止まるにまとめました。電源と回線は別々に備える必要があります。