災害時の電源の備えは「モバイルバッテリーを何個持つか」で語られがちです。ただ実際の避難所では、誰かの端末だけが残り5%で、隣にいる家族の端末には60%残っている、という状況が起こります。ケーブル1本で電気を分けられるなら、それがいちばん早い。

スマホからスマホへ充電することは、条件つきでできます。ただし「できる」と「災害時に頼れる」は別です。先に結論です。

  • Pixelは「バッテリーシェア」で他のスマホをワイヤレス給電できる。 Googleは「Qi 認証済みのスマートフォンやアクセサリ」を背面に重ねて充電できると案内している
  • ただし公式ヘルプが挙げている対応機種はPixel 5〜Pixel 9 Pro XLまで。a シリーズ・Fold・Pixel 10シリーズは一覧に載っていない(2026年9月2日時点)
  • iPhoneは15以降がUSB-Cから給電できる。 ただしAppleが挙げているのは「AirPods、Apple Watch、USB Power Deliveryに対応した別の小型デバイス」で、最大4.5ワット
  • 4.5Wは、Appleが高速充電の条件として挙げる18W以上の4分の1以下。「あと数%を渡す」ための手段であって、満充電を分け合う手段ではない
  • 給電した側の電池も減る。 2台とも中途半端になるのが最悪のパターン

この記事では、公式に何が案内されているかを機種別に整理したうえで、そもそもこれに頼らずに済ませる順番をまとめます。

Pixelの「バッテリーシェア」でできること#

Google Pixel ヘルプ「Google Pixel を使って他のデバイスを充電する」には、次のように書かれています。

バッテリー シェアを使用すると、Qi 認証済みのスマートフォンやアクセサリ(Google Pixel Buds など)を Google Pixel の背面に重ねてワイヤレス充電できます。

つまりPixelを「置くだけ充電器」にして、相手のスマホを背中に乗せるという使い方です。相手はPixelである必要はなく、Qi対応のスマホであれば対象になります。

対応機種(公式ヘルプの記載)#

Googleが名指ししているのは次の機種です。

Google Pixel 5、Google Pixel 6、Google Pixel 6 Pro、Google Pixel 7、Google Pixel 7 Pro、Google Pixel 8、Google Pixel 8 Pro、Google Pixel 9、Google Pixel 9 Pro、Google Pixel 9 Pro XL

ここは自分の端末を確認しておく価値があります。a シリーズ(Pixel 6a・7a・8a・9a など)、Fold、そしてPixel 10シリーズは、この一覧に含まれていません。 日本語版・英語版のどちらのヘルプページでも、同じ機種までの記載です(2026年9月2日確認)。

一覧にないことは「使えない」という公式の断定ではありませんが、当てにして防災計画を立てるべきではないとは言えます。手持ちのPixelで使えるかどうかは、次の手順で項目が出てくるかを平常時に確かめておいてください。

オンにする手順と、残量の下限設定#

Googleの案内はシンプルです。

  1. スマートフォンの設定アプリを開きます。
  2. [バッテリー] [バッテリー シェア] をタップします。

災害時に効くのは、自分の残量がどこまで減ったら給電をやめるかを決められる点です。Googleは次のように案内しています。

バッテリー シェアをオフにする場合のスマートフォンの電池残量(10%~50%)を設定できます。スマートフォンの電池残量がこのレベルを下回ると、バッテリー シェアを行えなくなります。

この下限を先に設定しておくのが、この機能のいちばんの使いどころです。焦っている場面で「気づいたら自分も20%」を防げます。停電中や避難所では、下限は高め(40〜50%)にしておくほうが安全側です。

途中で止まる条件#

バッテリーシェアは、次のようなときに自動でオフになるとGoogleは案内しています。

止まる条件補足
「ワイヤレス充電を開始した場合」自分がワイヤレス充電器に載ったとき
30秒間、他のデバイスを充電していることを検知できないとき置いただけで通電していないケース
受電側の充電が完了したと判断したとき―
「高温に達した場合」夏の車内・直射日光下では起きやすい
「不適切な配置やケースの厚みなどの問題が原因で電力供給が機能しない」ケースが厚いと通らない
「バッテリー セーバーがオンになっている場合」省電力モード中は使えない
「有線での充電を開始した場合」ヘルプではPixel 9・9 Pro・9 Pro XLについて記載

災害時に引っかかりやすいのは下から2番目です。電池を節約するために省電力モードを入れていると、そもそもバッテリーシェアが動きません。 省電力モードでどの機能が止まるかは災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定にまとめています。

「置いたのに充電されていなかった」も現実によくある失敗です。貴重な数十分を無駄にしないよう、置いたあとに受電側の表示を確認してください。

iPhoneは「USB-Cで最大4.5ワット」#

iPhoneには、他のスマホをワイヤレスで充電する機能はAppleから案内されていません。代わりに、iPhone 15以降はUSB-Cコネクタから有線で給電できます。Appleサポートには次のように書かれています。

iPhone 15以降を使用して、AirPods、Apple Watch、USB Power Deliveryに対応した別の小型デバイスを最大4.5ワットで充電することが可能です。

Lightning端子の機器にも給電できます。Appleは、Lightningコネクタ搭載のデバイスを充電するにはApple USB-C - Lightningケーブルで接続する、と案内しています。

そしてAppleは、機器やケーブルの品質についても注意しています。

USB-C規格に準拠していないデバイスやケーブルは、正常に機能しない場合があります。

「iPhoneからiPhoneへ」は公式には案内されていない#

ここは正確に書きます。Appleが名前を挙げているのはAirPods・Apple Watch・USB Power Delivery対応の小型デバイスであって、別のiPhoneやAndroidスマホを充電できるとは書かれていません。

USB-C同士をつないだときにどちらが給電側になるかは、機器同士のやり取りで決まります。Appleがその挙動を公開していない以上、「iPhone同士をつなげば電気を分けられる」と当てにするのは避けてください。防災バッグに入れるべきはケーブルではなく、モバイルバッテリーです。

4.5Wがどのくらい遅いか#

数字の意味は、同じApple公式の別ページと並べるとわかりやすくなります。

用途Appleが案内している条件
iPhone 15以降を高速充電する(約30分で最大50%)「Apple製の18W以上のUSB-C電源アダプタ」
iPhone 17・17 Pro・17 Pro Maxを約20分で最大50%にする「40W以上のアダプタ」
iPhoneが他のデバイスに給電する最大4.5ワット

高速充電の条件の4分の1以下です。しかも給電側のiPhoneも、同時に自分の電池を減らしていきます。

「スマホ同士の給電は、救助を呼ぶ一本の電話ぶんを確保する手段」くらいに考えておくのが実際的です。家族全員の端末を1台でまかなうことはできません。

なお、充電の速さがアダプタ・ケーブル・端末の3点で決まる話は災害時にスマホを早く充電するには?にまとめました。給電する側が非力だと、ほかの条件をそろえても速くならないという点は同じ理屈です。

ワイヤレスで分け合うときの安全面#

避難所のように人が密集した場所では、机の上に小銭や鍵、カード類が置かれています。ここが危ないところです。

Googleは、ワイヤレス充電について次のように案内しています。

ワイヤレス充電器とデバイスの間には、他の金属製の物や磁気を帯びた物を置かないでください

具体例として硬貨、貴金属、SIMトレイツール、クレジットカードが挙げられています。バッテリーシェアはPixelの背面が充電器になるため、この注意はそのまま当てはまります。

あわせて、次の点も挙げられています。

ケースを付けたままだと、スマートフォンや充電器が過熱する恐れや、スマートフォンが適切に充電されない恐れがあります

ワイヤレス充電中は、スマートフォンの USB ポートにケーブル、コード、アダプターなどを差し込まないでください

金属製のケースを使っている場合は外すように、とも案内されています。避難所でありがちな「Pixelを充電しながら、その背中で家族のスマホを充電する」は、最後の注意に触れます。実際、バッテリーシェアは有線充電の開始でオフになるとGoogleも案内しています(Pixel 9シリーズについての記載)。

電池そのものが劣化していると、発熱や急な残量低下も起きやすくなります。手持ちの端末の状態は災害の備えは本体バッテリーの点検からで先に確認しておいてください。

災害時の優先順位:スマホ同士は「4番目」#

ここまでを踏まえると、電源の備えは次の順番になります。スマホ同士の給電は、上の3つが尽きたあとの手段です。

  1. モバイルバッテリーを用意する — 何個必要かの考え方は災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?。家族の人数ぶんの容量を見積もっておく
  2. 電池を減らさない — 災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定と、通信量そのものを絞る災害時にデータ容量が尽きたら?
  3. 外から電気を持ってくる — 車からの給電、住宅用太陽光の自立運転、避難所や携帯ショップの無料充電は停電中にスマホをどう充電する?。家電まで動かすなら災害用ポータブル電源の選び方
  4. スマホ同士で分ける — 本記事の内容。数%を渡すための最後の手段

3番目については、公的な記録もあります。総務省「平成29年版 情報通信白書」は、2016年の熊本地震で「スマートフォンなどの電源確保のため、携帯電話用充電器(マルチチャージャー)の提供が行われた」と記しています。避難所に充電手段が用意されることはある、ということです。

ただし、用意されるまでの時間と当日の行列は別の話です。最初の数十時間を自前でしのげるかどうかが、結局のところ分かれ目になります。

「電池を分け合う」前に「回線を分け合う」#

家族が同じ場所にいるなら、電池より先に回線を共有するほうが効率的です。全員が個別に通信するより、1台をテザリングの親機にしたほうが合計の消費は小さく収まります。

ただし親機になった端末には通信と電池の負担が集中します。設定手順と、親機を誰にするかの決め方は災害時に1本の回線を家族で分け合うにまとめました。

ここでバッテリーシェアが噛み合います。電池が多い人が親機になり、電池が少ない人の端末には必要な分だけ渡す——という組み合わせなら、限られた電力を通信に集中させられます。ただし前述のとおり、省電力モード中はバッテリーシェアが動かない点に注意してください。

もう1台の端末を持っているなら、そちらにサブ回線を入れておく手もあります。使い方は古いスマホを災害用の予備端末にするに、回線の選び方は災害用サブ回線は月いくらで維持できる?にまとめています。

今日やっておくチェックリスト#

  • 自分のPixelの設定 → バッテリー → バッテリー シェアに項目があるか確認した
  • 項目があるなら、オフになる残量(10%〜50%)を高めに設定した
  • 省電力モード中はバッテリーシェアが使えないと覚えた
  • iPhoneの給電は最大4.5W・小型デバイス向けであり、iPhone同士は公式案内がないと理解した
  • 家族の端末に合うケーブルの種類と本数を数えた(USB-C/Lightning)
  • ワイヤレスで重ねるときは硬貨・カード・金属製ケースを外すと覚えた
  • そもそもこれに頼らないよう、モバイルバッテリーを満充電にしてしまった

最後の項目が本題です。スマホ同士の給電は、備えを忘れた日のための保険であって、備えの代わりにはなりません。

まとめ#

  • Pixelの「バッテリーシェア」は、Qi認証済みのスマホやアクセサリを背面に重ねてワイヤレス給電する機能
  • 公式ヘルプの対応機種はPixel 5〜9 Pro XL。a シリーズ・Fold・Pixel 10シリーズは一覧にない(2026年9月2日時点)
  • オフになる残量を10%〜50%で設定できる。平常時に高めに設定しておく
  • 省電力モード中・高温時・有線充電中は止まる。災害時ほど条件に引っかかりやすい
  • iPhoneは15以降がUSB-Cから最大4.5ワットで給電できるが、対象は小型デバイス。iPhone同士は公式に案内されていない
  • 4.5Wは高速充電の条件(18W以上)の4分の1以下。数%を渡す手段と考える
  • ワイヤレスで重ねるときは硬貨・カード・金属製ケースを外す

「分け合える」とわかっているだけで、避難所での判断は少し楽になります。ただ、分けられる電気は、誰かがあらかじめ持ってきた電気だけです。今日のうちにモバイルバッテリーの残量を確認しておいてください。