スマホが鳴らなかったから大丈夫、とは限りません。
先に結論です。気象庁が緊急速報メールで配信しているのは「緊急地震速報」と「大津波警報・津波警報」の2つだけです。大雨の特別警報などは、2021年10月に気象庁からの配信が終わり、配信元が地方公共団体に移りました。
- 気象庁の緊急速報メールは、地震と津波の2種類
- 気象等・噴火に関する特別警報は、令和3年10月28日で気象庁からの配信を終了
- 避難指示や特別警報が鳴るかどうかは、住んでいる自治体の運用しだい
- 水害・土砂災害の危険度は、鳴るのを待たずに自分から取りに行く必要がある
格安SIMかどうかとは関係のない話ですが、「格安SIMだから鳴らなかったのでは」と誤解しやすいところでもあります。順に見ていきます。
① 気象庁が緊急速報メールで流しているのは2種類#
気象庁の「緊急速報メール」のページに挙がっている配信情報は、次の2つです。
- 緊急地震速報
- 大津波警報・津波警報
これがすべてです。気象警報も、注意報も、キキクル(危険度分布)の色の変化も、気象庁からは緊急速報メールでは流れません。
緊急速報メール自体は、よくできた仕組みです。ドコモは「対象エリアにいるお客さまは、月額使用料のほか通信料や情報料も含め一切無料でご利用できます」とし、申込みも不要としています。さらに、通常のメールとは別の方式で対象エリアへ一斉配信されるため、「回線混雑の影響を受けずに受信することができます」とも明記しています。
つまり、災害時に電話がつながりにくくなる状況でも届きやすい。だからこそ「これで全部カバーされている」と思い込みやすいのですが、流れてくる情報の種類はもともと絞られています。
受信できる端末かどうか、設定がオンになっているかという話は格安SIMでも緊急速報メール(緊急地震速報)は受信できる?にまとめました。この記事はその先、「受信できる状態でも、そもそも流れてこない情報がある」という話です。
② 特別警報は「気象庁の配信」ではなくなった#
2021年10月12日の気象庁の報道発表「緊急速報メール配信の見直しについて」に、こう書かれています。
「令和3年10月28日をもって気象等及び噴火に関する特別警報の緊急速報メールによる配信を終了」
対象になったのは次の2つです。
| 配信を終了した情報 | 内容 |
|---|---|
| 気象等に関する特別警報 | 大雨、暴風、波浪、高潮、大雪又は暴風雪の特別警報 |
| 噴火に関する特別警報 | 噴火警報(居住地域)が該当 |
一方で、同じ発表は「緊急地震速報や津波警報等(大津波警報、津波警報)についての緊急速報メールは、引き続き、携帯電話事業者から配信されます」としています。地震と津波は変わりません。
では特別警報は誰も流さないのか#
ここは正確に押さえておく必要があります。「特別警報が緊急速報メールで届かなくなった」わけではありません。配信元が変わりました。
ドコモのエリアメールの配信情報一覧では、「気象等に関する特別警報」は国・地方公共団体が配信するものの側に分類されており、注釈として「変更前)気象庁」「変更後)地方公共団体」と記載されています。
つまり、自治体が配信すれば届くし、配信しなければ届きません。全国一律ではなくなった、というのがこの変更の実質です。気象庁も、自治体向けの案内ページで「各携帯電話会社の緊急速報メールサービスを活用して、サービスの対象エリアにおられる住民の方々に災害・避難情報を配信している自治体も増えてきています」という書き方をしています。増えてきている、という表現である以上、自分の自治体がどうなのかは自分で確認するしかありません。
なお、避難情報(高齢者等避難・避難指示・緊急安全確保)も、もともと国・地方公共団体が配信する側の情報です。
③ なぜ変わったのか——「特別警報を待つな」ということ#
気象庁は見直しの理由として、警戒レベル制度の導入により「警戒レベル5相当情報である特別警報を待つのではなく、自治体からの具体的な避難情報に基づき、警戒レベル4までに必ず避難することが重要と整理」されたこと、および自治体の避難情報の伝達体制が充実したことを挙げています。
これは運用の後退ではなく、「特別警報が出る頃には遅い」という整理です。警戒レベルの対応は気象庁のページで次のように示されています。
| 警戒レベル | 意味 | 相当する情報の例 |
|---|---|---|
| 5 | 何らかの災害がすでに発生している可能性が極めて高い | 特別警報 など |
| 4 | 危険な場所からの避難が必要 | 危険警報、キキクル「危険」(紫) |
| 3 | 高齢者等は危険な場所からの避難が必要 | 警報、キキクル「警戒」(赤) |
| 2 | 避難行動の確認が必要 | 注意報、キキクル「注意」(黄) |
| 1 | 災害への心構えを高める必要がある | — |
そして警戒レベル4について、気象庁はこう書いています。
「自治体からの避難指示の発令に留意するとともに、避難指示が発令されていなくてもキキクルや河川の水位情報等を用いて自ら避難の判断をしてください」
「自ら避難の判断をしてください」という一文が要点です。プッシュで届くのを待つ前提の備えでは足りない、と公式に書かれているわけです。
④ 穴を埋める3つの経路#
では、鳴らない情報をどう受け取るか。公式に確認できる経路は3つあります。
(1)キキクルのプッシュ型通知#
キキクルは、気象庁が提供する危険度分布です。対象は土砂災害・浸水害・洪水災害の3つで、危険度が色で示されます(令和4年6月30日から「災害切迫」(黒)が加わり、「非常に危険」と「極めて危険」は「危険」(紫)に統合されています)。
気象庁は民間事業者と協力し、「危険な場所からの避難が必要とされる警戒レベル4に相当する『危険』(紫)などへの危険度の高まりをプッシュ型で通知するサービス」を提供しています。気象庁のページに挙がっている協力事業者は次のとおりです。
- キキクル通知:LINEヤフー株式会社、日本気象株式会社、アールシーソリューション株式会社、ゲヒルン株式会社、株式会社島津ビジネスシステムズ
- 噴火警報・噴火速報の通知:LINEヤフー株式会社、日本気象株式会社、アールシーソリューション株式会社、ゲヒルン株式会社、株式会社ウェザーニューズ
ポイントは、これが気象庁が公式に協力先として挙げている経路だということです。「なんとなく評判のいいアプリ」ではなく、出所をたどれる形で選べます。
(2)自治体からの情報#
避難指示を出すのは自治体です。受け取り方は自治体ごとに違い、防災メール、公式アプリ、防災行政無線、緊急速報メールなどが使われます。自分の市区町村がどれを使っているかは、事前に調べておく以外に方法がありません。
自治体が出した情報は、Lアラート(災害情報共有システム)を通じて報道機関などにも共有されます。総務省の説明では、Lアラートは災害時に地方公共団体の職員や報道機関などが必要な情報を一元的に発信・共有する仕組みで、2019年(平成31年)4月に全都道府県での運用が実現しています。地方自治体やライフライン事業者などの「情報発信者」と、放送事業者・新聞社・通信事業者などの「情報伝達者」が共通の基盤を使う形です。
つまり、自治体の情報はテレビ・ラジオ経由でも流れてきます。通信が止まったときに残る手段としてのラジオは災害時の情報収集にラジオは要る?に整理しました。
(3)防災アプリ#
防災アプリは、緊急速報メールが流さない情報を拾える点と、現在地以外の地点を登録できる点が利点です。
たとえばYahoo!防災速報は、公式ページで「現在地と国内3地点まで設定可能」と案内されており、無料で提供されています(対応OSはiOS 16〜/Android 10〜と記載)。緊急速報メールは「いまいる場所」にしか届きませんから、離れて暮らす家族の地域を登録できるかどうかは実務上けっこう大きな差です。
誰がどの地域を見るかを含めて事前に決めておく話は家族の安否確認ルールの決め方にまとめています。弾道ミサイル情報などのJアラートについて、消防庁が受信できない場合の対策として挙げている手段はJアラート(ミサイル情報)は格安SIMのスマホにも届く?で紹介しています。
⑤ 格安SIMユーザーが気をつけること#
ここが、このブログの本題に関わる部分です。
アプリ経由の通知はインターネット接続が前提です。緊急速報メールが回線混雑の影響を受けにくいのに対し、アプリの通知はふつうのデータ通信を使います。つまり次の3つで差が出ます。
- データ容量を使い切っていないか — 低速に制限された状態では、通知は届いても地図やキキクルの画面が開けないことがあります。容量が尽きたあとの速度と節約のしかたは災害時にデータ容量が尽きたら?に整理しました
- 省電力設定で通知が止まっていないか — 低電力モードやバッテリーセーバーは、バックグラウンド更新や通知の挙動に影響します。何が止まるかは災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定にまとめています
- そもそも圏外になっていないか — 停電が長引けば基地局が止まります(停電が長引くと基地局が止まる)。圏外になれば、アプリの通知は届きません
整理すると、役割はこう分かれます。
| 経路 | データ通信 | 届く範囲 | 主に流れる情報 |
|---|---|---|---|
| 緊急速報メール | 不要(無料・回線混雑の影響を受けにくい) | いまいるエリアのみ | 緊急地震速報、津波警報、自治体が配信する避難情報など |
| 防災アプリ・キキクル通知 | 必要 | 登録した地点も含む | 大雨・土砂災害・洪水の危険度など |
| ラジオ(受信機) | 不要 | 放送エリア | 自治体の避難情報を含む報道 |
どれか1つで済ませられる経路はありません。通信が要らない経路と、要る代わりに情報量が多い経路を、両方持っておくのが現実的です。
⑥ 今日できるチェックリスト#
- 端末の緊急速報メールの設定がオンか確認する(手順はこちら)
- 自分の市区町村が、避難情報をどの手段で流しているか調べる(防災メール/公式アプリ/緊急速報メール)
- 自治体の防災メール・アプリに登録しておく
- キキクルの通知サービスか防災アプリを1つ入れ、通知を許可しておく
- 防災アプリに、離れて暮らす家族の地域を登録する
- 電池残量が減ったときに通知が止まる設定になっていないか確認する
- 通信が止まったときに備え、電池で動くラジオを用意する
- 避難場所までの経路をオフライン地図で落としておく
まとめ#
緊急速報メールは強い仕組みですが、気象庁から流れてくるのは緊急地震速報と津波警報の2つだけです。気象等の特別警報は2021年10月28日で気象庁の配信が終わり、配信元は地方公共団体に移りました。届くかどうかは自治体の運用しだいです。
そして気象庁自身が、警戒レベル4の説明で「避難指示が発令されていなくてもキキクルや河川の水位情報等を用いて自ら避難の判断をしてください」と書いています。鳴るのを待つ設計から、自分で取りに行く設計へ——備え方の前提が変わっている、と考えたほうが実態に合います。
とはいえ、取りに行くにも通信と電池が要ります。連絡手段全体の組み立ては災害時の連絡手段まとめを、通信が止まったときに何が残るかは災害時の情報収集にラジオは要る?をあわせてご覧ください。