モバイルバッテリーやポータブル電源を買って防災袋に入れた時点で、備えは終わったつもりになりがちです。ところがリチウムイオン電池は何もしなくても残量が減り、保管のしかたによって劣化が進みます。停電のときに取り出したら残量ゼロ、あるいは膨らんでいて使えない——これは実際に起こります。

先に結論をまとめます。

  • 長期保管中の推奨残量は満充電でも空でもなく、その中間。Ankerは自社製モバイルバッテリーについて「約60%」、Jackeryはポータブル電源について「50%〜80%程度」と案内している
  • 再充電の間隔はAnker・Jackeryとも「3か月ごと」。Apple製デバイスを6か月以上しまう場合はAppleが「6か月ごとに50%まで充電」と案内している
  • 保管場所はいずれも涼しく乾いた場所。Appleは「32°C以下」、Ankerは「0〜35°C」を挙げている
  • NITEによると、リチウムイオン電池搭載製品の事故は2021年から2025年の5年間で2140件。製品別ではモバイルバッテリーが最も多い
  • 膨らんだ電池はJBRCの回収対象外。捨て方は自治体ごとに違うので、自治体のルールを確認する

なぜ「入れっぱなし」では備えにならないのか#

理由は2つあります。

1つめは、使わなくても残量が減ること。 Ankerの公式セーフティガイドは長期保管について「Recharge every 3 months to prevent deep discharge(深放電を防ぐため3か月ごとに充電する)」と書いています。深放電=放置して残量が尽きた状態は、電池にとって望ましくないという前提です。

2つめは、満充電のまま置くのも空のまま置くのも良くないこと。 Ankerは充電の習慣として「Disconnect the charger once the device is fully charged(満充電になったら充電器を外す)」「Avoid allowing the battery to fully drain before recharging(使い切ってから充電するのは避ける)」の両方を挙げています。Jackeryの公式情報も、長期保管時は残量を50%〜80%程度にすると案内しています。

つまり「満充電にして押し入れに入れておく」も「買ったときの状態のまま何年も置く」も、どちらも推奨されていないということです。

公式が案内する保管中の残量と再充電の間隔#

各社の公式情報に書かれている内容を並べます。対象が違う(デバイス本体/モバイルバッテリー/ポータブル電源)ので、混ぜずに読んでください。

対象保管中の残量再充電の間隔保管環境
Apple製デバイス(iPhoneなど)
Apple公式
「50%前後充電した状態」「6か月以上デバイスを保管する予定の場合は、6か月ごとに50%まで充電」「湿気のない、32°C以下の涼しい環境で保管」
Anker製モバイルバッテリー
Anker公式セーフティガイド
「About 60% / 3 indicator lights」(約60%=インジケーター3つ)「Every 3 Months」(3か月ごと)「Operating and Storage Temperature: 32°F to 95°F (0°C to 35°C)」
Jackery製ポータブル電源
Jackery公式
「バッテリー残量を50%〜80%程度の状態で保管する」「3ヶ月に1回を目安に、残量を確認し充電する」「保管温度:-20〜45℃(3か月以内)」

読み取れること#

  • 数字は製品ごとに違うが、方向は同じ:半分から8割くらいで、3〜6か月に一度見る
  • 「3か月」がひとつの目安になる:モバイルバッテリーもポータブル電源も3か月です。防災用品の点検を年1回にしている家庭も多いのですが、バッテリーだけは間隔が短い
  • 保管温度の上限は意外と低い:Appleは32°C、Ankerは35°Cです。夏の車内やベランダの物置は簡単に超えます

車内保管の危険については寒さ・暑さでスマホは止まるでも触れていますが、バッテリー単体でも同じことが起きます。Ankerは充電環境として「Avoid direct sunlight and high-temperature environments (such as inside a parked car)(直射日光や、駐車中の車内のような高温環境を避ける)」と明記しています。

事故は増えている(NITEの統計)#

製品評価技術基盤機構(NITE)の製品安全情報マガジン(2026年8月7日号)は、「2021年から2025年までの5年間で、『リチウムイオン電池搭載製品』の事故は2140件ありました」としています。そして「製品別では『モバイルバッテリー』の事故が最も多く」、「『ポータブル電源』の事故も増加傾向にあります」と書かれています。

その前年の注意喚起(2025年6月26日)では、2020年から2024年までの5年間で1860件、そのうち「事故の約85%(1860件中1587件)が火災事故に発展」しており、件数は6月〜8月にかけてピークになるとされています。

NITEはこの注意喚起で、火災事故を防ぐ3つのポイントを挙げています。

  1. 正しく購入する:「連絡先が確かなメーカーや販売店から購入する。リコール対象ではないことを確認して購入し、購入後も常に最新の情報をチェックする」
  2. 正しく使用する:「高温下に放置するなどして熱を与えない。強い衝撃を与えない」
  3. 正しく対処する:「充電・使用時は時々様子を見て、異常を感じたらすぐに充電・使用を中止する。万が一発火した場合は大量の水で消火し、可能な限り水没させた状態で、119番通報する」

防災用に買うときの選び方(PSEマーク、容量の考え方)は災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?に、ポータブル電源の容量と出力の見方は災害用ポータブル電源の選び方にまとめています。この記事は、買ったあとに何をするかの話です。

異常のサイン:膨らむ・熱い・異臭#

点検で見るのは残量だけではありません。次のような状態は使用を中止する合図です。

  • 本体が膨らんでいる・変形している(ケースに入らなくなった、平らな面が浮いている)
  • 充電していないのに熱い
  • 異臭がする、液がにじんでいる
  • 落としたあと・水に濡れたあとに挙動が変わった

膨らんだ電池が危ないのは、内部にガスがたまっているからです。NITEのメールマガジンは、ある事故の原因について、モバイルバッテリーに内蔵されたリチウムイオン電池セルが内圧上昇による膨張で破裂し、噴出した可燃性ガスに引火したものと考えられる、と説明しています。

NITEの注意喚起ポスターは、対処としてこう案内しています。

モバイルバッテリーが膨らんでしまった際は、金属製の容器にふたをして密封してください

理由は「万が一発火などした場合、周囲への延焼被害を低減することができます」とされています。なお、このポスターには「※専門家が実験を行っております。大変危険ですのでマネしないでください」という注記があります。穴を開けて確かめる、分解する、押して戻すといったことは絶対にしないでください。

スマホ本体のバッテリーが膨らんでいないか、劣化がどこまで進んでいるかを確認する手順は災害の備えは本体バッテリーの点検からにまとめています。

捨て方:膨らんだものはJBRCでは回収されない#

使えなくなったモバイルバッテリーを普通ごみに出すのは避けてください。環境省の広報ページは、「誤った分別区分で廃棄されたリチウム蓄電池がごみ収集車やごみ処理施設の破砕機等で衝撃が加わった際に出火し、火災事故となった」と説明し、こうした火災事故等が「令和2年度で12,765件も発生しています」としています。

正常なものはJBRCの協力店へ#

一般社団法人JBRCは、小型充電式電池のリサイクル回収を行っています。公式サイトの案内から重要な点を抜き出すと、次のようになります。

  • 対象は「ニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池のいずれか」
  • 「携帯電話・スマートフォンへの充電を主機能とするモバイルバッテリーのみ本体回収になりますので、分解して電池を取り出さないでください」
  • 出すときは「金属端子部分を絶縁テープで絶縁」する。テープは「透明なビニールテープ(セロテープ不可)」
  • 回収拠点は公式サイトの協力店・協力自治体検索で探せる

膨らんだもの・破損したものは対象外#

ここが落とし穴です。JBRCの案内では、回収の条件として「破損、水濡れや膨張等の異常のある電池や、外装なしのラミネートタイプの電池ではないこと」とされています。つまり膨らんでしまったモバイルバッテリーは、協力店の回収ボックスには出せません。

環境省のページは、リチウム蓄電池は「お住まいの地域によって捨て方が異なるので、必ず自治体のHPやごみ分別冊子などを確認して、自治体のごみ捨てルールに従って捨ててください」としています。異常のあるものは、自治体の窓口に「膨らんだモバイルバッテリーをどう出せばよいか」を確認するのが確実です。

これは災害前に片付けておく作業です。被災後は、ごみの収集も自治体の窓口も平常どおりには動きません。

半年に一度やることリスト#

防災用品の点検日を決めている場合は、バッテリーだけ3か月ごとに前倒しするのがおすすめです。

  • モバイルバッテリーの残量を確認し、取扱説明書の推奨値(Anker製なら約60%)まで充電する
  • ポータブル電源の残量を確認し、推奨値(Jackery製なら50〜80%)まで充電する
  • 本体に膨らみ・変形・異臭・変色がないか手で触って確かめる
  • 端子にほこりや金属片が入っていないか見る(Ankerは「Do not store the product with keys or other metal objects」=鍵などの金属と一緒に保管しないと案内)
  • ケーブルの被覆の傷みを確認する(バッテリーが生きていてもケーブルが断線すれば使えません)
  • 保管場所が夏に30°Cを超えないかを見直す(車内・ベランダ物置・屋根裏は避ける)
  • 予備スマホを一緒に保管している場合は、そちらも50%前後に充電し直す
  • 使わなくなったバッテリーが家に溜まっていないか確認し、回収先を調べる

予備スマホの保管と、しまう前にやっておく設定は古いスマホを災害用の予備端末にするにまとめています。Appleの「6か月ごとに50%まで充電」は、まさにこの予備端末の保管に当てはまる案内です。

まとめ#

  • リチウムイオン電池は放置すると残量が減る。Anker・Jackeryはどちらも3か月ごとの再充電を案内している
  • 保管中の残量は半分から8割が目安。満充電のまま・空のまま置かない
  • 保管場所は涼しく乾いた場所。Appleは32°C以下、Ankerは0〜35°Cを挙げている
  • NITEの集計では、リチウムイオン電池搭載製品の事故は2021〜2025年の5年間で2140件、製品別ではモバイルバッテリーが最多
  • 膨らんだら使用中止。NITEは金属製の容器にふたをして密封すると案内。分解・穴あけは絶対にしない
  • 膨らんだものはJBRCの回収対象外。捨て方は自治体に確認する

電源の備えが整ったら、次は「電気があっても通信ができない」場面への備えです。停電中にどう充電するかは停電中にスマホをどう充電する?に、停電が長引いて基地局が止まった場合に何が起きるかは停電が長引くと基地局が止まるにまとめています。