格安SIMの明細に「電話リレーサービス料 1.1円」という行を見たことはないでしょうか。金額が小さいので見落としがちですが、これは聴覚や発話に困難のある人が電話を使えるようにするための公共インフラの費用で、音声通話SIMを持っている人が全員少しずつ負担しています。
そして災害時、この仕組みは「声を出して通報できない人」の連絡手段になります。ただし、どれも事前登録がないと使えません。
先に結論をまとめます。
- 電話リレーサービス料は音声通話SIMに毎月1.1円(税込)。IIJmioは2026年4月ご利用分から1.1円と案内している。データ専用SIM(020番号)は対象外
- 電話リレーサービスは法律にもとづく公共インフラ。24時間365日、通訳オペレータが手話・文字と音声を通訳する。110・118・119への発信も可能で、緊急通報は無料
- 利用には事前登録が必要。登録後、050から始まる専用番号が郵送で届く
- NET119は消防(救急・火事)専用。登録先は住んでいる地域を管轄する消防本部で、全国719本部のうち677本部が導入済み(令和8年4月1日現在)
- 警察へは110番アプリシステム(警察庁)。こちらも事前登録が必要で、「国内のどこからでも、通報場所を管轄する警察本部に通報できます」とされている
- いずれもアプリと通信を使う仕組み。基地局が止まれば使えないので、これ1本に頼る備え方はしない
明細の「電話リレーサービス料」は何の費用か#
まず、多くの読者が実際に払っている側の話から整理します。
IIJmioは2026年4月以降の請求について、対象を「音声通話機能付きSIM(みおふぉん)または音声通話機能専用SIM(ケータイプラン)」とし、金額を1回線あたり月額1.1円(税込)と案内しています。あわせて「020番号(M2M等専用番号)は電話リレーサービス料の対象外」と明記しています。
NTTドコモも「1電話番号あたりの電話リレーサービス料は、月額1.1円(税込)です。(2025年4月現在)」とし、対象を「ご利用になる電話番号数(020からはじまる番号は除く)」と書いています。
つまり、次のように整理できます。
| 契約 | 電話リレーサービス料 |
|---|---|
| 音声通話SIM(090/080/070の番号) | かかる(月額1.1円・税込) |
| データ専用SIM(020番号) | かからない |
この単価は事業者が自由に決めているものではありません。支援機関である一般社団法人電気通信事業者協会(TCA)が番号単価を算定し、交付金の額・負担金の額とあわせて総務大臣の認可を申請する手続きになっており、TCAは令和8年度分の認可申請を2026年2月9日付で公表しています。
サブ回線をデータ専用SIMで持っている場合、この行は明細に出てきません。データ専用SIMには音声通話用の番号がないためで、災害時にできること/できないことも変わります。詳しくは災害時に「SMS認証コードが届かない」とログインできないにまとめました。
電話リレーサービスとは#
総務省は、聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律(令和2年法律第53号)にもとづき、令和3年7月1日、24時間365日体制による電話リレーサービスの提供を開始したと説明しています。提供機関は一般財団法人日本財団電話リレーサービスです。
サービスの定義は公式サイトの次の説明が正確です。
聴覚や発話に困難のある人と、きこえる人との会話を通訳オペレータが「手話」または「文字」と「音声」を通訳することにより、電話で即時双方向につながることができるサービス
ポイントは双方向であることです。きこえない人からかけるだけでなく、登録時に発行される050から始まる電話番号を知らせておけば、きこえる人から電話を受けることもできます。安否確認は「かける」と「受ける」の両方がそろって初めて機能するので、ここは重要な違いです。
緊急通報にも使える(しかも無料)#
公式サイトは、緊急時に「110(警察)」「119(消防)」「118(海上保安庁)」へかけることが可能で、「緊急通報及びフリーダイヤルへの発信は無料です」と明記しています。
利用料金は、きこえない人が発信する場合に2つのプランがあります。
| 月額料なしプラン | 月額料ありプラン | |
|---|---|---|
| 月額料 | 無料 | 178.2円(税抜162円) |
| 固定電話・特定IP電話あて | 16.5円/分(税抜15円) | 5.5円/分(税抜5円) |
| 携帯電話あて | 44円/分(税抜40円) | 33円/分(税抜30円) |
| 緊急通報・フリーダイヤル | 無料 | 無料 |
月額料なしプランでも緊急通報は無料です。「普段は使わないが、いざというときのために登録だけしておく」という持ち方ができます。維持費をかけずに手段だけ確保しておく考え方は、災害用サブ回線は月いくらで維持できる?と同じ発想です。
登録に必要なもの#
公式の登録案内によると、対象は「身体障害者手帳を持っている・病院で診断を受けている・聞こえないことがある」のいずれかに該当する人です。手帳がなくても対象になり得る書き方になっている点は見落とされがちです。
- 本人確認書類:マイナンバーカード(裏面不要)・身体障害者手帳・運転免許証(両面)・各種健康保険被保険者証/資格確認書のいずれか1点
- 申込方法:スマートフォンやタブレット端末でアプリをダウンロードして申し込む方法と、書類を郵送する方法の2つ
- 登録完了後:電話リレーサービス用電話番号と初回パスワードが郵送で通知される
最後の1行が、災害への備えとして決定的です。登録は郵送を挟むため、その場で思い立って使えるものではありません。
手話リレーと文字リレー、そして「ヨメテル」#
公式サイトは通訳の方式について、手話リレーは「ビデオ通話で通訳オペレータと繋がる」、文字リレーは「起き抜けの時や移動中にサッと気軽にチャット形式で電話ができます」と説明しています。どちらも通信を使う仕組みだという点は、あとで触れます。
さらに総務省は、令和7年1月23日、文字表示電話サービス「ヨメテル」の提供を開始したと発表しています。これは「電話で相手先の声が聞こえにくいことがある人へのサービスとして、自身の声で通話相手に伝え、通話相手の声を文字で読むことができる」もので、電話リレーサービスとは別のサービスですが、同じ提供機関が運営しています。
- 電話リレーサービス:手話・文字 ⇄ 音声を通訳オペレータが仲介する
- ヨメテル:自分は声で話し、相手の声を文字で読む
「声は出せるが、電話の声が聞き取りにくくなってきた」という家族には、ヨメテルのほうが合う場合があります。加齢による聞こえの変化は誰にでも起こるので、親世代の備えとして知っておく価値があります。
NET119:消防に「声を出さずに」通報する#
もうひとつ、消防への通報に特化した公的な仕組みがNET119緊急通報システムです。総務省消防庁は次のように説明しています。
音声による119番通報が困難な聴覚・言語機能障害者が円滑に消防への通報を行えるようにするシステム
通報の流れも具体的に書かれています。
スマートフォンなどから通報用Webサイトにアクセスして、消防本部が消防隊や救急隊をどこに出動させるべきかを判断するために必要な「救急」「火事」の別と、通報者の位置情報を入力すれば、即座に消防本部に通報が繋がり、その後にテキストチャットで詳細を確認する仕組み
登録については「利用に当たっては、事前に登録が必要です。申請方法は、お住まいの地域を管轄する消防本部へお問い合わせください」とされています。全国一律の窓口ではなく、消防本部ごとの手続きである点に注意してください。
導入状況も公表されています。令和8年4月1日現在で、導入済み消防本部数は677本部(719本部中)、2026年度末までに導入予定の消防本部数は682本部(導入済み本部を含む)です。全国の大半をカバーしていますが、まだ全部ではありません。自分の地域が導入済みかどうかは、管轄の消防本部に確認する必要があります。
警察へは110番アプリシステム#
警察庁の110番アプリシステムは「聴覚に障害のある方など、音声による110番通報が困難な方」を対象としたもので、「スマートフォンの画面操作によって、文字を用いたチャット方式による110番通報ができます」「スマートフォンのGPSを利用し、通報場所の位置情報を通知できます」と説明されています。
こちらも「本システムのご利用には、事前登録が必要です」とされていますが、NET119と違い「国内のどこからでも、通報場所を管轄する警察本部に通報できます」と案内されています(日本国内でのみ利用可能)。旅行先・避難先で使えるかどうかという点で、消防と警察では前提が違います。
3つの使い分け#
| 電話リレーサービス | NET119 | 110番アプリシステム | |
|---|---|---|---|
| 提供 | 日本財団電話リレーサービス(法律にもとづく公共インフラ) | 総務省消防庁 | 警察庁 |
| かけられる先 | 一般の電話番号全般+110・118・119 | 消防(救急・火事)のみ | 警察のみ |
| 電話を受けられるか | 受けられる(050番号) | 受ける用途ではない | 受ける用途ではない |
| 事前登録 | 必要(郵送で番号が届く) | 必要(管轄の消防本部) | 必要 |
| 対応 | 24時間365日 | 導入済みの消防本部(677/719本部) | 国内のどこからでも |
日常の連絡から緊急通報まで通してカバーできるのは電話リレーサービスですが、消防への通報だけを見ればNET119のほうが手順が短いという違いがあります。両方登録しておくのが確実です。
災害のとき、これらは本当に使えるのか#
ここは正直に整理しておきます。
(1)どれも通信を使います。 電話リレーサービスの手話リレーはビデオ通話、文字リレーはチャット形式です。NET119も「通報用Webサイトにアクセスして」通報します。つまり、スマホが圏外になれば、これらは使えません。停電が長引いて基地局が止まる状況については停電が長引くと基地局が止まるにまとめました。
(2)バッテリーが切れれば使えません。 ビデオ通話は電池の消費が大きい手段です。災害時にスマホの電池を長持ちさせる設定と災害用モバイルバッテリーの容量はどう選ぶ?を先に押さえておいてください。
(3)登録は当日にはできません。 電話リレーサービスは番号が郵送で届き、NET119は管轄消防本部での手続きが要ります。災害が起きてから登録する、は成立しません。
だからこそ、平時の登録が備えそのものになります。あわせて、声を使わない連絡手段は他にもあります。文字で安否を残す方法は携帯4社の災害用伝言板の使い方に、家族との取り決め方は家族の安否確認ルールの決め方にまとめています。
音声通話SIMかデータ専用SIMかで変わること#
格安SIMのユーザーが確認しておきたいのは、自分の契約に音声通話用の電話番号があるかです。
データ専用SIMには090/080/070の番号がありません。電話リレーサービス料の対象外なのはそのためですが、同時に緊急通報の可否にも関わります。格安SIMで110番・119番がかけられる条件は格安SIMで110番・119番はかけられる?に整理しました。災害用のサブ回線を選ぶときは、サブ回線の最低維持費の比較とあわせて、音声つきにするかどうかを判断してください。
チェックリスト#
- 明細の「電話リレーサービス料」が何かを知っている(音声通話SIMに月1.1円・税込)
- 家族に聞こえにくい人がいるなら、電話リレーサービスの登録を検討した
- 電話リレーサービスは月額料なしプランでも緊急通報は無料だと知っている
- 登録すると050番号が発行され、きこえる人から電話を受けられることを家族と共有した
- その050番号を、家族の連絡先に登録しておいた
- 管轄の消防本部がNET119を導入済みか確認した
- NET119・110番アプリシステムの事前登録を済ませた
- 「声で話し、相手の声を文字で読む」用途ならヨメテルという選択肢があると知っている
- これらは通信と電池が要ると理解し、伝言板・伝言ダイヤルなど別の手段も用意した
まとめ#
- 音声通話SIMには毎月1.1円(税込)の電話リレーサービス料がかかる。IIJmioは2026年4月ご利用分から1.1円と案内し、020番号(データ専用)は対象外と明記している
- 電話リレーサービスは令和3年7月1日開始の公共インフラで、24時間365日、手話・文字と音声を通訳オペレータが仲介する
- 110・118・119への発信が可能で、緊急通報とフリーダイヤルは無料。月額料なしプランでも無料
- 登録には本人確認書類が必要で、050番号は郵送で届く。当日に使い始めることはできない
- NET119は消防専用・管轄消防本部への事前登録制で、677本部/719本部が導入済み(令和8年4月1日現在)
- 110番アプリシステムは警察庁の仕組みで、事前登録のうえ「国内のどこからでも」通報できる
- 「声で話し、相手の声を文字で読む」ならヨメテル(令和7年1月23日開始)という別サービスがある
- いずれも通信と電池が前提。圏外・停電では使えないため、伝言板や伝言ダイヤルと組み合わせて備える
毎月1.1円という金額は、意識しなければ気づかないまま払い続ける額です。ただ、その先にあるのは「声を使わずに119番へつなぐ」ための全国的な仕組みでした。自分か家族に該当する人がいるなら、登録は今日から進められます。災害が起きてからでは間に合わない手続きが、ここにもひとつあります。